参戦コストが低く、注目度が高い
「セッティングすることが少ないので、プライベーターも多く参戦しています。普通のレースではメカニックなどが帯同することが多いですが、Yaris Cupはオーナーひとりが自走してきて、レースしてそのまま帰るケースもよくあります」。
Yarisu Cupはチューニングの幅が狭いため、参戦コストも安い。それが若者だけでなく、レースに興味があったジェントルマンの背中を押すことにも成功している。チームによってパーツ交換やオーバーホールの頻度は異なるが、参戦コストの相場感は軽自動車のN-ONE Owners’ Cupと大差ない。
「自前でカップカーを持っていれば、エントリー費から移動や宿泊、消耗品までコミコミで1戦あたり15~25万円程度でしょう。マシンをレンタルする場合でも、追加費用は約10万円程度と思います」。
安いなら注目度もそれなりかといえば、そんなことはない。2023年にGT300を制した埼玉トヨペットなど、トヨタ系レーシングチームの名門も名を連ねるエントラントには、関係者やメーカーの熱い視線が注がれている。ステップアップを志す若武者は、「ここで頭角を表せば86/BRZ Cupなど上位カテゴリーへの道が開ける」と奮起する。
レースの「いろは」を学べる
Yaris CupはJAF公式戦の登竜門。国内Aライセンスを要し、チームでレースに臨む。入門カテゴリーといえど、レースのフォーマットは上位カテゴリーと同じだ。
「参戦コストや規模、チームの体制などはもちろん上位カテゴリーとは違います。しかしクルマを準備し、マシンを作り込むところから始まるレースへの取り組み方は同じ。レースの基本的な『いろは』を学びたい人には最適でしょう」。
レースで自走できなくなるような致命的なトラブルは少ないという。レースの基礎をしっかり学べ、自走で帰れるカテゴリーは少ない。そして結果次第では上位カテゴリーのチームから声がかかるとなれば、フレッシュマンレースとして人気なのもうなずける。
ハイレベルな併催レースも楽しめる
スーパー耐久や86/BRZ Cupなど、レベルの高いレースと併催されることもYaris Cupの魅力だ。レースの参加者にはレースウィークを通してのパスが発行されるため、観戦やパドックめぐりもはかどる。
「ハイレベルなレースの関係者を間近で見ることができ、いい刺激になります。そういった刺激を受けた上で観るレースそのものからも、得られるものは多いでしょう」。
タイヤづくりで差をつけろ!
カップカーにできる数少ない細工がタイヤのセッティングだ。空気圧やタイヤの使用状況によって走りは大きく変わる。川福氏が実際に行った対策を聞いた。
ローテーションでリアタイヤを仕込む
レースは4輪フレッシュで行うのが当然、というわけではない。FFカテゴリーのYaris Cupでは、フロントこそトラクションやハンドリングのためにグリップした方がいいが、リアはあまりグリップするとマシンの動きを阻害してしまう。そこでチームはリアタイヤがいい塩梅で滑るようにする。そのセッティングはサーキット到着前から始まっている。
リアタイヤの溝はレース終了時点で一定以上残っていないといけないが、減り具合に関する規定は細かくない。カンナで削ることは許されていないが、自然に減る分にはOKというレギュレーションのため、ドライバー達はタイヤづくりに励む。
「リアがコーナーで引っかかるような動きをしないために、私もタイヤを仕込みました。まずは4本とも新品で2セッション走ったあと、フロントについていたタイヤを逆履きでリアにローテーションして削りました。最後にもう少し角を落とすため、もう一度フロントに回して残りの走行枠を走ると完成です」。
空気圧と減り具合でセッティングを仕上げる
中にはタイヤの減り具合でキャンバー角を調整するドライバーもいるという。キャンバー角はレギュレーションで定められているため、サスペンション側の上限値に上乗せする形でタイヤ自体のキャンバーを増やすことはできない。しかし最適なコーナリング性能を求めて、タイヤの減り具合とサスペンションの合わせ技でキャンバー角を作り上げることもある。
こうしてできあがったタイヤは、レース前に空気圧で仕上がる。空気圧は、Yaris Cupにおいてほぼ唯一と言っていい自由な領域だ。リアタイヤの空気圧を高めに設定することでグリップを減らし、コーナーで適度に滑るよう調整する。とはいえズルズル滑ればいいというわけではないので、経験とセッティング能力がモノを言うポイントだ。
Yaris Cupはプロとアマチュアの交差点
「ドライバーの層が厚く、優勝を狙う人から中段・初心者まであらゆるレベルが集まっています」というYaris Cup。参戦にかかる時間的、金銭的コストを抑えることで、逆に高い競技性と注目度を集めている。伝統あるフレッシュマンカテゴリーは、2024年にシリーズを増やしたことでさらなる隆盛が期待できる。
レースは限られた人の特権ではなくなっている。Yaris Cupを機に、参加型モータースポーツの世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。