タイヤを作って飛ばすと速い!?
N-ONEは重心の高いFF車なので、激しいロールとアンダーステアをいかにねじ伏せるかがカギになる。また、電子制御に介入されてレース中に「安全運転」になることを回避するテクニックも欠かせない。これらをナンバー付き、つまり法定の車検を通せる状態で達成するためには、少々強引なセッティングが必要になる。川福氏が代表的なセッティングとして挙げるのが、テールスライドを強引に発生させる「リア飛ばし」だ。
通常、レースではグリップ力の優れた新品タイヤが好まれる。しかし、N-ONEがコーナーを普通に曲がると、タイヤの限界の前にロールの限界が訪れるのだという。ロールの限界を超えて旋回すると「グリップゴケ」、要するに転倒する。グリップゴケを回避するために、N-ONE OWNER’S CUPのレーサーたちはリアタイヤからグリップを奪い、テールスライドの挙動を生み出そうとする。
「レースするなら卸したての新品タイヤ!と思いますよね。ですがN-ONE OWNER’S CUPでは使い込まれた中古タイヤが速いんです。N-ONE OWNER’S CUPはエコタイヤを使うので、溝が多いとコーナーで左右にヨレてロスになります。また、サイドウォールが残りすぎていると、これまたコーナーで引っかかってアンダーステアが出ます。
レース前に街やサーキットを走り込んで、いい塩梅までタイヤを減らしておくところからタイヤづくりは始まります。
ちなみに僕の車両はフロントの空気圧を4kgf/cm2、リアを5kgf/cm2に設定していました」。
参考までにN-ONEの指定空気圧は以下の通りだ。
ホイール | フロント | リア |
---|---|---|
14インチ | 2.4kgf/cm2 | 2.3kgf/cm2 |
15インチ | 2.1kgf/cm2 | 2.1kgf/cm2 |
川福氏 | 4kgf/cm2 | 5kgf/cm2 |
上位ドライバーたちは空気圧とスプリングレートを極端に高くすることで、とにかくリアタイヤの仕事を奪おうとしている。フロントのグリップも犠牲になるが、ストレートにおける抵抗の少なさと回頭性が相殺するのだという。ボトムスピードをいかに稼ぐかという課題に対してメカニックとドライバーがひねり出した最大公約数が、この「尖った」セッティングだった。
現在は、1戦でも表彰台を獲得したドライバーは、次戦以降で必ず新品タイヤを装着することが義務付けられている。
ここでしか見られない技術が詰まったN-ONE OWNER’S CUP
N-ONE OWNER’S CUPの競技シーンには独自進化した奥深いノウハウが凝縮されている。レースできるのはフルチューンされたGTマシンだけではない。ナンバー付き車両で行うレースには、限られた改造範囲の中で搦め手も使いながら戦う面白みがある。逆に、開発の余地が残されているパーツにはレースのフィードバックが大いに活かされている。
N-ONE OWNER’S CUPは、そんなナンバー付きのワンメイクの中でもひときわ盛り上がりを見せているシリーズだ。週末に和気あいあいと楽しめる、参加型のモータースポーツとして認知されている。
走行会を飛び出して、レースの世界に飛び込みたい人にとって、これ以上手軽で安心な場所はない。ここで勝つために、ここにしかない技術を惜しみなく投入するレースの世界へ、足を運んでみてはいかがだろうか。