2024年のSUPER GTで自身、そしてJLOCチーム初のシリーズチャンピオンを獲得した元嶋佑弥選手。2016年にデビューするも初優勝は2023年の最終戦と、決して勝ち星が多いSUPER GTキャリアではなかった。そんな元嶋選手がJLOCで戴冠した2024シーズンはどのようなシーズンだったのだろうか。
初優勝からチャンピオン獲得後の心境まで、約1年間を振り返ってもらった。
次の目標はシリーズチャンピオン
2023年の最終戦モビリティリゾートもてぎ。後半スティントを担当する小暮卓史選手がトップチェッカーで戻ってきた。88号車のピットは小暮卓史・元嶋佑弥組のGT300初優勝に湧き上がった。
「僕のレース人生が変わり、チームの自信が高まった瞬間でした。初優勝以降はトップを走っているとソワソワする緊張感から解放され、チームが勝利に集中できるようになりました。目標が『初優勝』から『シリーズチャンピオン』に変わったんです」。
チャンピオンを目指すチームは小さな目標をたくさん立てた。「ポイントを取りこぼさない」、「最終戦までチャンピオンの挑戦権を残す」。
「タスクを必死にこなしていることでチームの雰囲気も高まり、ヨコハマタイヤさんもよく顔を出してくれるようになりました」。

チャンピオンマシン・ウラカンEVO2
2016年からJLOCが投入しているランボルギーニ・ウラカンGT3は、2025年がラストイヤーとなる。2023年から投入されているEVO2はウラカンの集大成だ。しかし先代と比べて空力性能が大幅に向上した一方で、パワーに弱点を抱えることにもなったという。
「吸気が側面から上方になったことで、先行車に近づいたときの吸気温度が上がってパワーが落ちやすくなりました。空力のアップデートでダウンフォースが増え、マシンのポテンシャルは上がったものの、ストレートスピードに悩むシーンもありました。

しかし2024年の第2戦からはインテークの熱を逃がすアップデートパーツが投入され、暑さによるポテンシャルダウンが軽減されました。これによって、現在のウラカンは年間を通して安定したパフォーマンスが出るようになっています」。
2024年はBOP(性能調整)がウラカン有利に働き、世界中でウラカンの、特にスプリントレースでのパフォーマンスが良いという。元嶋選手はそんなウラカンのセッティングを、基本的にエンジニアの伊与木氏と小暮選手に任せている。
「僕はどんなセッティングでもある程度乗れるので、小暮さんがセッティングのことを話し始めたら『やっちゃっていいですよ』と言っています。僕はあまりクルマに触りません」。
現実味を帯びるチャンピオンの栄光
熟成の進んだマシンと、気温が高くなる前に開催される開幕戦とあって、開幕戦の岡山はJLOCにとって優勝を狙ったレースだった。しかし予想に反して気温が高く、暑い環境を苦手とするシーズン開幕当初のウラカンEVO2は、思うように成績を伸ばせなかったという。
続く第2戦ではアップデートパーツの投入も助けて、88号車は独走で優勝を飾った。チームは、「チャンピオンに手が届くぞ」と、現実感の増す王座に向けて闘志をみなぎらせ始める。

しかし、第6戦まで表彰台から遠ざかると、一度は手の届きかけたチャンピオンの座が遠くにかすみ始めた。第7戦のオートポリスで優勝できなければ今シーズンのチャンピオンはない。
「第7戦以降、チームは見たことがないような凄まじい雰囲気に包まれました。マシンが苦手とするオートポリスで、予選は15番手。でも、誰も諦めていないんです。JLOCはいつしか、無意識にチャンピオンを睨んだチームになっていました。必死の追い上げで優勝。次のもてぎも17番手からの逆転優勝。チームが大逆転を繰り返して大きな勢いに乗っている実感がありました」。
最終戦を前にした時点で首位65号車とのポイント差は11。65号車も大量ポイントを獲得することを予想すれば、ポールトゥウィンがチャンピオン獲得の必要条件だ。最終戦は第5戦の延期開催となったため、通常のシーズンよりも寒い12月になった。冷気は吸気温度にパフォーマンスの影響を受けやすいウラカンにとって有利な材料だ。
「もう気合と根性しかありません。最後の3レースは気合と根性でもぎ取った3勝なんです」。
その言葉と期待に応えて88号車はポールトゥウィンで優勝。シリーズ8戦4勝、通算4ポイント差で逆転チャンピオンに輝いた。

勝利のその後
「喜びはもちろん、行く先々で祝福してもらえる嬉しさには、SUPER GTの大きな影響力も感じました。そして、重圧から解放されて、チーム全員が大騒ぎしたあの時間は一生の思い出です。改めて一本気な則竹代表のカッコ良さには一生ついていきたいですし、JLOCと心中する覚悟です。
これから先どうなるかはわからないことは多いですが、僕はGTを通して則竹代表が言っている『JLOCを後世に残していきたい』という言葉を実行する手伝いをしていきたいと思っています。個人では海外レース、特に世界三大レースのルマン24時間耐久レースに出てみたいですね」。
JLOCチームは、「負ければ終わり」という状況を何度もくぐり抜けた。その死線の越え方は、どこか元嶋選手のレーサー人生とも重なる。何度も消えかけるチャンスを必死につかみ、全力で目の前のレースに挑み続けた者だけに見える景色がある。
ディフェンディング・チャンピオンとしてJLOCが迎える2025シーズンは、ウラカンで挑むラストイヤー。JLOCは、どのようなドラマを見せてくれるだろうか。