80年から国内におけるジュニアフォーミュラのすそ野を支えてきたFJ1600に代わり、Super FJ(SFJ)が07年に発足。カートからF3などにステップアップするフォーミュラの登竜門として、多くのトップドライバーを輩出してきた。この記事では、過去にSuper FJやFJ1600をドライブし現在はスーパー耐久やMini Challenge Japanなどで活躍する川福健太氏とともに、Super FJのマシン特性やレースの魅力について紹介する。
フォーミュラ入門カテゴリーとしてのSuper FJ
Super FJは、FJ1600の後継車種として登場した。他の多くのフォーミュラカテゴリーと同様、タイヤやエンジンはワンメイクで、改造は禁止されている。イコールコンディションでドライバーやチームの力がレース結果に現れやすい設計だ。
SFJマシン諸元
完全にワンメイクのF4と異なり、マシンはVITAを制作しているウェストレーシングカーズなど、複数の企業が受け持っている。サスペンションなども複数のメーカーが別々の製品を投入しているため、セッティングの幅が広い。
パーツ | スペック |
---|---|
エンジン | 1500cc 直列4気筒 SOHC(L15A) |
トランスミッション | 5速Hパターンドグミッション |
フレーム | 鋼管スペースフレーム |
タイヤ | ダンロップ(ワンメイク) |
車両重量 | 420kg前後(シャシーによって異なる) |
最低地上高 | 50mm |
車両価格(23年7月現在) | 〜約400万円 |
開催日程
Round | サーキット | 日程 |
---|---|---|
日本一決定戦 | 鈴鹿 | 12/7/8 |
Round | サーキット | 日程 |
---|---|---|
1・2 | もてぎ | 4/27-28 |
3 | もてぎ | 8/10-11 |
4・5 | SUGO | 8/31-9/1 |
6 | SUGO | 11/9-10 |
7 | もてぎ | 11/23-24 |
Round | サーキット | 日程 |
---|---|---|
1 | 筑波 | 3/17 |
2 | 富士 | 4/13 |
3 | 筑波 | 5/5 |
4 | 筑波 | 5/26 |
5 | 富士 | 6/23 |
6 | 筑波 | 7/28 |
7 | 筑波 | 9/15 |
8 | 筑波 | 10/27 |
Round | サーキット | 日程 |
---|---|---|
1 | 鈴鹿 | 2/25 |
2・3 | 岡山 | 4/28 |
4・5 | 鈴鹿 | 5/11-12 |
6 | 鈴鹿 | 6/15-16 |
7 | 鈴鹿 | 10/5-6 |
Round | サーキット | 日程 |
---|---|---|
1 | オートポリス | 3/31 |
2 | オートポリス | 5/12 |
3 | オートポリス | 6/16 |
4 | オートポリス | 8/18 |
5 | オートポリス | 10/6(TBC) |
6 | オートポリス | 11/10(TBC) |
フォーミュラ入門向けのマシン設計
Super FJをひと目みた時の特徴は、フォーミュラカー然としたウィングと、高めに設定された地上高だ。実はその2点が入門用フォーミュラとしての機能を持っているという。
「小さい頃からカートに乗っている若者がステップアップするときの第一候補がSuper FJです。Super FJにはカートと異なり、空力パーツがあります。F1のように極端ではありませんが、ウイングによって生じたダウンフォースを使ったドライビングが経験できます。
FJ1600はとても車高が低く、初心者がコースアウトするとグラベルから出られず、走行を無駄にしてしまうという課題がありました。Super FJは車高を上げることで、アクシデント後の走行機会を増やす設計になっています」。
自分で購入する人は少なく、チームの車両をレンタルするケースがほとんどだという。「ローカルのシリーズ戦に参戦すると、年間約400~600万円が必要な予算になるでしょう。自分で車両を購入している人は1,000万円以上かけていることもあります」。
ステップアップを目指すドライバーがSFJを選ぶ理由
角田裕毅選手や岩佐歩夢選手をはじめ、現在のトップドライバーはSuper FJで活躍した経歴を持つ。ポテンシャル的にはSuper FJを挟まずにF4で活躍できるドライバーも、戦略的にSuper FJをドライブすることがあるという。ポイントは関係者の視線だ。
「中にはF4からフォーミュラを始めるドライバーもいますが、基礎を固めてからステップアップした方が結果を出しやすくなります。FIA F4などは、自動車メーカーの育成ドライバーがメーカーの看板を背負って走るようなもの。関係者の目も厳しくなります。彼らと渡り合う技術をフォーミュラ1年目で持っている人はほとんどいないでしょう。
逆にF4デビュー1年目、2年目で目立った成績を出せれば注目を集められます。Super FJは、F4と比べればフォーミュラの基礎を固めやすい環境です。実際にSuper FJを経て活躍するドライバーが多いこともそれを証明しているといえるでしょう」。
Super FJにはドライビングの他にも、メカニックとのコミュニケーション、セッティングの知識など、以降のキャリアに欠かせない要素が詰まっている。
各地域のサーキットで優秀な成績を残したドライバーが鈴鹿サーキットとモビリティリゾートもてぎに集まり、日本一決定戦が開催される。現在F1で活躍する角田裕毅選手は2016年の日本一決定戦チャンピオンだ。日本一決定戦前のコースにはエントリーが増え、前哨戦の様相を呈する。
Super FJの乗り味とタイムの出し方
FJ1600よりもハコ車に近づいた
Super FJは車高が高いので、前後のピッチングや荷重移動の動きが他のフォーミュラカーよりもハコ車に近い。「Super FJの走行を見ると、車体がサスペンションと一緒に動いていることが見て取れます」。
FJ1600には空力性能がない代わりに車高が低く、足回りはフォーミュラ的に振る舞う。Super FJは多少の空力性能を持つが、足回りがハコ車的に動く。その差し引きでSuper FJはFJ1600よりもハコ車に近づいた。
「一方でエンジンとフレームが一体化したマシンの振動や、地面に近接したコックピットの配置など、フォーミュラカーならではの構造はSuper FJの魅力でもあります」。
車体を「回し」てタイムアップ
Super FJを速く走らせるコツは、FJ1600時代から変わらない「こまのようにブレーキング侵入でリアを回す」走らせ方だ。エンジンはホンダ・フィットのL15Aなので少し非力。コーナーでタイムを稼ぐためには、旋回速度と回転数を高く維持する必要がある。ある程度速くなったドライバーが伸び悩む原因に、「しっかり減速しすぎ」なことがよくあるという。
「速い人は少しドリフトさせるように走っています。ブレーキでオーバーステアを出しながらコーナーへ進入、そのままブレーキをきっかけにゼロカウンターでドリフトに近い動きをします。立ち上がりもスライド状態からアクセルコントロールで、パワースライド気味に立ち上がっていきます。総じてオーバーステア気味なSuper FJの特性をプラスに使う走り方です」。
車体を回すためには適切な舵角でのハンドリングが必要だ。しかし、カート上がりの人にはその舵角が大きすぎ、逆にハコ車上がりの人には小さすぎるという。
「カートはこぶし1個分くらいしかハンドルを切りませんが、Super FJでは最大180度近く回します。『曲がらない』『いや、曲げれば曲がるよ』という会話がよく起きます。ハコ車に乗っていた人からするとそのレスポンスが想定外に速く、スピンしてしまうことも」。
カート上がりを苦しめるブレーキとシフト
Super FJはカートよりも車速が高い。しかしブレーキブースターが搭載されていないので、コーナーで「止める」ためには思い切り蹴とばすような踏力が要求される。また、空力は高速域での制動力を高めるので、ダウンフォースを使ったブレーキングも必要になってくる。
「フル制動が終わると、今度は曲げるためのブレーキングです。カート上がりのドライバーは曲げるきっかけ作りのブレーキは経験していますが、止めるブレーキングを知りません。4輪のブレーキが効いて車体が安定する感覚も新鮮でしょう」。
Super FJの車体は軽く、タイヤは細い。荷重をかけてフロントタイヤに「仕事」をさせるためには、フルブレーキングとオーバースピードを使う必要がある。つまり、突っ込むタイプの走り方が要求される。この特性を踏まえると、先に述べた「コースアウトしてもリカバリー可能な車高設定」にも頷ける。
ブレーキと並んでカート経験者を悩ませるのがシフト操作だ。Super FJにはフォーミュラカー独特のショートストロークシフトが搭載されている。右手側にシフトノブがある上に、車体構造の関係で3速を左斜め前に入れるなど、あまり慣れない動きをすることになる。
「5速から4速に入れようとしたら2速に入ってしまい、オーバーレブを引き起こしてしまうこともあります。これはマニュアル操作に慣れたハコ車上がりのドライバーも苦戦するポイントです。シフトミスが怖くてミスを許容できるような余裕のある走りをしてしまい、タイムを落とすドライバーも多くいます」。
Super FJならではの魅力
フォーミュラの感覚
コックピットに座ればむき出しのフロントタイヤが目の前で左右に動く様が見える。富士スピードウェイのホームストレートでは200km/h以上を、地上スレスレの低視点で体感することになる。
「風圧でヘルメットがコックピットに押し付けられる感覚や、パイプフレームを伝ってくる振動やノイズはフォーミュラに乗らなければ体験できない世界です。この迫力、雰囲気には一度味わったら忘れられない興奮を覚えます」。
ジェントルマンクラスも
Super FJはプロドライバーの登竜門だが、ジェントルマンクラスが設けられていることも魅力だ。40歳以上のドライバーが対象で、レギュラークラスと混走になるが表彰は別。日本一決定戦でもジェントルマンクラスが開かれている。以前FJ1600に乗っていたドライバーの復帰も見られている。
「若手と戦いながらクラスでローカルチャンピオンや、日本一を狙えます。僕は今年40歳になったので、ジェントルマンクラスで復帰してクラス優勝や表彰台に乗ってみたいですね」。
登竜門兼カムバック先という稀有な存在
若手の登竜門として、またベテランのカムバック先として人気を集めているSuper FJ。ミッションがHパターンであるなどややガラパゴスな側面もあるが、フォーミュラの基本的な構成や要素は押さえているクルマだ。
ジェントルマンシリーズが開催されるなど、他のフォーミュラカテゴリーと比べてその門戸は広く開かれている。これからF1へ旅立つかもしれないドライバーと、カムバックしたベテランの共演は多くのレースで見られる光景ではない。もし参戦カテゴリーに迷っているのなら、Super FJを選択肢に入れて検討してみてはいかがだろうか。