レーシングカートは、入門者からプロレーサーもトレーニングに愛用するモータースポーツの基礎的カテゴリーだ。安全かつ快適に速く走るためには、よい装備を身に着けるに越したことがない。今回は1990年代からカートに乗り続け、世界選手権でも戦った経験を持つ阪直純氏が、2024年時点で「最高」と太鼓判を押す装備を紹介してもらった。阪氏はレース装備物販大手モノコレの代表取締役。2004年の設立以前から装備を見つめ続けて20年以上になる。装備はタイムに「効く」順にご紹介していく。
シューズ:OMP KS-XR
レーシングシューズは足さばきの要だ。阪氏いわく最もタイムに効いてくる装備だという。4輪の公認競技にも出る場合は4輪モデルをカートでも使えばいいが、カートにしか乗らない場合はカート用モデルがオススメ。
「カート専用モデルはデザイン性と操作性が高く、価格も抑えめです。特にOMPのボア式シューズは脱着とフィッティングが簡単。機械的な操作で脱着するため、靴ひもがほどけたり緩む心配がありません」。
モノコレは後述するヘルメットやスーツなどと同じく、モデルによってカラーカスタムが可能だ。全身のコーディネートに合わせて自分好みのスタイルに仕上げるといいだろう。
ヘルメット:SCHUBERTH SK1
シューベルトのSK1は、F1で活躍するマックス・フェルスタッペン選手なども愛用する、SP1のカート用モデルだ。空力デザインとフィット感に優れているだけでなく、定番のArai GP-6よりも300g軽い。カートは体が露出した状態でドライブするため、風との付き合い方がウィンドウのある4輪カテゴリーと比べて重要になる。
「SK1は2つの観点でエアロダイナミクスが優れています。まずは空気をスムーズに受け流すため、高速走行しているときに頭を持ち上げられる感じが少なくなります。また、ヘルメット内に取り入れられる空気の流量が多いため、同じ環境でドライブすると他のヘルメットよりも涼しく快適です」。
フィット感も他の追随を許さない。Gを受けて体が左右に揺れるとき、頂点にある頭部はヘルメットの重量も相まって最も大きな遠心力を受ける。そこでしっかりと頭にフィットしてGの影響を最小化するヘルメットが必要になる。首にかかる負担を軽減すれば疲労が変わる。疲労が減ればタイムが伸びる。
「SK1は海外メーカー製ながら、円形がちな日本人の頭にもフィットしやすい形状をしています。そのフィット感は頭に載せているというよりも、下からも支えられてヘルメットの中に入り込む感じ。軽くてしっかりフィットするから疲れないことが魅力です。
また、バイザーは3D成形されており、一枚板を湾曲させるバイザーと比べて視界の歪みが少ないことが特長。防曇性も高く、雨の中で走ってもまったく曇りません」。
バイザー:FMV Plus
定番のArai GP-6シリーズを愛用しているドライバー向けに紹介してもらったバイザーがFMV Plusだ。カラーバリエーションが豊富で、定番アイテムに自分だけのオリジナリティをトッピングできる。視認性も高く、FIA-F4などのミドルフォーミュラや、スーパー耐久シリーズでも愛用者が多いという。
グローブ:-273シリーズ
-273シリーズはとにかくグリップ力が高いカート用のグローブ。レンタルカートからCIK世界選手権まで、カートのあらゆるカテゴリーに愛用者がいるモデルだ。35以上のカラーバリエーションから好きなカラーリングを選べるので、ファッション的にも他の装備と組み合わせやすい。
「一度使うとやめられないほどグリップが強烈。4輪用のグローブをカートで使うと敗れやすいですが、その心配も不要です」。
4輪用のグローブは2万円以上の商品が多い。4輪用はカート用に対して規格上の上方互換性があるが、耐久性はカート用の方が優れている。カートと4輪の両方に乗り、カートに乗る頻度が高い場合、4輪用だけで運用していると買い替えの頻度が増えてコストパフォーマンスが落ちる。どちらも乗る場合は両方のグローブを揃えておくことがオススメだ。4輪用のグローブはこちらの記事をご覧いただきたい。
スーツ&ブーツ:Marinaで統一がオススメ
スーツやインナーなどは体の動きや汗の乾きやすさを変える。また、スーツは全身のコーディネートを左右する重要なファッションアイテムだ。阪氏のオススメは、スペインのMarina社と共同開発している独自素材の装備。涼しく、デザイン性に富むアイテムが揃っている。
レーシングスーツ
「特定のブランドへの強いこだわりがないのであれば、Marinaスーツに好きなだけデザインを入れて自分だけのスーツを作り上げてください」。
Marinaのスーツシリーズは全身にデザインが入れ放題という画期的なスーツだ。通常は無地のスーツにワッペンを刺繍するため、デザインを追加するたびにコストが上昇する。一方でMarinaは入稿されたデータを昇華印刷するため、いくらロゴを入れてもコストが変わらない。生地はMarina社と共同開発した素材で、ストレッチ性と着心地にこだわっているという。
「カートのトップカテゴリーでは同スーツを着用したドライバーがほぼ全勝の成績を収めています」。
ソックス
本格的にレースする場合は、ソックスにもこだわりたい。アクセルやブレーキをする足に直接触れる装備がソックスであるだけでなく、公式競技では耐火ソックスの着用が競技規則で定められている。MARINAのM2ソックスは快適で破れないというユーザーが求めるふたつの性能を両立したモデルだ。
「FIA公認のソックスは『操作性が高いがペラペラで破れやすい』、もしくは『破れにくいが厚手でゴワゴワ』に大別されます。M2は薄手で操作性を保ちながらも耐久性が高いことが特長です。たとえばS社のソックスはレースのたびに破れて買い替えることになりますが、M2はまだ『破れた』という報告を聞いていないほど長持ちします」。
4輪競技にも出場するならハンスはStand 21がおすすめ
公認4輪レースでは装着が義務付けられている、首や頭部をクラッシュ時に守る装備がハンス(FHR)だ。走行会でも、安全のためには装着しておいた方がいいだろう。
ハンス(FHR):Stand21 FHRフェザーライト
走行中の首を支えるハンス(FHRデバイス)のオススメはStand21のFHRフェザーライト。とにかく軽いことが特長で、総重量が420gしかない。F1ドライバーにも愛用される超一流装備だ。
「4輪でも使える20度のモデルではFHRフェザーライトが最軽量です。ちなみに私は若いドライバーがいる場面では別のモデルを使います。羨ましがられて『貸してくださいよ』が止まらないので(笑)」。
ちなみによく使われる「ハンス」という表現はハンス社の商標であるため、他社製品の名称には使えない。
ハンスパッド:EXGEL
4輪競技でハンスの上からシートベルトを締め付けると鎖骨に大きな負荷がかかって痛い。そこでハンスパッドの出番がやってくる。EXGELはハンスパッドとスーツの間に挟む緩衝材で、シートベルトの圧力を分散する効果がある。SUPER GTドライバーのEXGEL採用率は95%にものぼるという。