相手にプレッシャーをかける
レースは戦いだ。ルールとマナーの範疇で相手が嫌がることをするのは他のスポーツと変わらない。レース中に可能な他車に対するプレッシャーのかけ方を聞いてみた。
耐久レースでは他クラスを活用
スーパー耐久シリーズは最大9クラスが混走するため、コース上でカテゴリーの異なるマシンが多く交差する。特に自分よりも速いマシンが後ろから迫ってきたときには、少しだけブロックして譲るタイミングを工夫する時もある。
「富士スピードウェイのダンロップコーナー(通称Bコーナー)の途中やその先の第3セクターで譲る走りはとても大きなタイムロスになります。譲る方も譲られる方も双方ともにロスになりそうなときは抜く・抜かれるタイミングをあえて早めたり遅めたりします。
また、ロスが発生するならライバルに多く起きてほしい。そこを考慮して、あえてGT3マシンや速いクルマを早めに譲って先に行ってもらうこともあります。その先の狭いコーナーが続く区間で先行するライバル車に重なってくれるとラッキーって思います(笑)。
ただし、僕は速いクラスをブロックしてタイミングを待ってもらうのはあまり好きではないので、切羽詰まったとき以外はあまりやらないようにはしています」。
ドライバーは人だ。不要なブロッキングをされればフラストレーションも溜まるので、多用は禁物だ。個人の性格によってブロッキングの使用頻度や度合いにもかなり差があるという。「ここで速い車を行かせたのは理由があるのかな?」思ったら、そのあとのセクションに注目すると面白い。
パッシング、揺さぶりを使った心理戦
ライトを使ったパッシング、ミラーに映る自分の姿を使った揺さぶりなど、レース中の心理戦は奥が深い。後ろから追い抜きにかかるマシンには多くのカードがある。一見隙のない走りをするライバルに対しても、あの手この手で揺さぶりをかけ、なんとか隙を作り出す。。
追い立てられるドライバーはミラーで常に後方の距離や動きを注視している。後ろのマシンがイン側にラインをずらしてきたと思ったら、ブロックせざるを得ない。対して後方のドライバーはそのコーナーの飛び込みでは仕掛けず、立ち上がりで勝負するという駆け引きができる。
「水温などに問題がなく視界が確保できるときは、追い抜くつもりがなくても後ろに張り付いたりたまに横に動いたりします。頻繁にやると自分も遅くなって相手も慣れてしまうので毎回はしませんが。
後ろに気を配って走ると、より集中力を使うしミスを起こしやすくなります。ブレーキ開始前後のタイミングで看板や目印を見ているときに、後ろでフワッと動かれたら嫌ですよね」。
ブロックする側もただオーバーテイクに怯えているわけではない。無線でチームと交信し、相手の状況やドライバーの情報から適切な防衛を行う。
「スーパー耐久の決勝中、GTで走っている選手に後ろから迫られたことがありました。以前その人の映像を見たときにオーバーテイク時に凄く巧みなフェイントをかけていたんです。無線で誰が乗っているか聞いていたのである程度対策が取れました。でもその後さらにあの手この手で攻め立てられてもっと大変でした…笑」。
駆け引きを知ればレースがもっと面白くなる!
抜いた、抜かれたという情報はあくまで結果だ。その過程であるチームやドライバーの駆け引きが理解できると、観戦や走行の楽しみが大幅に増える。スプリントレースではブロックを捨ててどん欲に先行車を追う光景も多い。それぞれのドライバーがどのような考えでタイムをボトムアップしようとしているのか考えながら観戦すると、自分の走りにも応用できる発見があるだろう。