レースの醍醐味は何といってもレース中の駆け引きだ。ドライバーやチームは最終的にトップでチェッカーを受けるために、あの手この手でライバルを出し抜こうとしている。SUPER GTとスーパー耐久シリーズに参戦している甲野将哉氏に、レース中に行われている駆け引きを解説してもらった。
戦略レベルの駆け引き
勝負はレース開始前から始まっている。どのようにクルマと人を使うかによってリザルトは大きく変わってくる。まずは耐久レース時のドライバー戦略から見ていこう。
耐久レース時のドライバー戦略
耐久レースは雨やクラッシュなどで刻々とコースコンディションが変わるので、戦略を決め打ちすることは難しい。その中である程度固定できるのがドライバー戦略だ。速さがある者、競り合いに負けない強い者、タイヤの消耗が少なく淡々と走る者など、ドライバーは多彩だ。
複数のドライバーが交代しながらステアリングを握る耐久レースでは、マシンを壊さず、最も速くチェッカーを受けられるようにチームは頭をひねらせる。
「ポイントはタイヤと燃料搭載量です。たとえば第一ドライバーが比較的コースの空いているところで走れそうな場合、必要最低限の燃料を搭載してタイヤ摩耗も考慮せずフルアタックして走ってもらうという選択肢もあります。短時間で一気に相手を引き離してタイムを稼ぎ次のドライバーにバトンタッチしてロングランをしてもらうという戦略です」。
スーパー耐久シリーズはピット時間も定められているため、最も効率よくピット作業を済ませてタイヤと燃料を使い切れるタイミングとドライバー選びが重要になる。
「また、他車トラブル時のセーフティカーやフルコースイエローは有効に使いたいものです。瞬時の状況判断でピットに入ることもあります。基本は無線でピットと交信しますが、コース上が混乱している時は無線が混線しやすく、よく聞こえないこともしばしば。
1周通過した後にはピットに入れないこともありますし、入ったら準備できてなかったなんてこともありえます。判断がわかりづらい時は本当に神経を使います」。
スプリントレースのタイヤ戦略
10~15周程度で行われる86/BRZ Cupなどのスプリントレースは、ドライバーの腕が短時間で勝敗を分ける。しかし、ここにもレース開始前にどのようなセッティングで勝負するか考える要素がある。
「スプリントレースではレースの序盤とそれ以降でタイヤの温度、内圧が変わります。タイヤの内圧を高めにしておくと序盤のパフォーマンスで有利ですが、熱が入った後半では内圧が上がりすぎてグリップが落ちます。そこで序盤に勝負を仕掛けて逃げ切るか、後半重視でいくかという駆け引きが生まれます。
そもそもレース距離が短く、追い抜きが困難なので、他のレース以上に予選タイムと順位が重要視される傾向にあります」。