ドライバー単位の駆け引き
ドライバー同士はコース上で熱いバトルを繰り広げている。守れば遅くなり、攻めれば隙ができる。一瞬の間隙を狙って相手の鼻先を抑えるバトルはレースの華だ。以下ではドライバーが考えていることを解説する。
レコードラインとブロックライン
レコードラインはベストタイムを出すための走行ライン。対するブロックラインは後続のライバルに抜かせないためのライン。レコードラインを走ればタイムは出るが、コースを大きく使うため、突っ込み重視の走りをする後続車にインを突かれる可能性が高くなる。そこでインの隙間を潰すように走るラインがブロックラインだが、コーナーでの最低速度(ボトムスピード)は低下する。
2位争いが激化している間に1位だけが遥か彼方へ逃げてしまうという光景はよく見られる。速さの要因は複合的だが、バトルの先行車両がブロックラインで走ることにより、それ以降のマシンが軒並み遅くなることはよくある。
後ろから追うマシンは先行車両にプレッシャーをかけることによって、ブロックラインを走るように仕向けることができる。その際に自分がレコードラインで走れば、立ち上がりの速さを活かしてストレートで追い抜くことができる。前を走る遅いマシンは守らなければインを突かれ、守れば立ち上がりで抜かれるという板挟みにあう。
ちなみにそうこうしている間にさらに後ろの集団が追い付いてきて混戦になることも多い。バトルは言い換えれば、ドライバーがコース上の「どこを走るか」という課題と向き合っている姿とも言える。
得手不得手を把握して攻略する
同じタイムで走るマシン同士でも、車両やドライバーによってコーナーやセクションの得手不得手がある。自分が得意なセクションで前に出られるように努力し、前に出たら自分の不得意な部分はブロックして守り切る。複数ラップにわたってバトルを続けていれば、だんだんと相手の手の内が見えてくる。
「自分が速いセクションはタイムロスしたくないのでミスしないように走ります。先行している時にミスしまうと、それ以降のセクションがかなり辛くなります。同じ理屈で、その場所ではなるべく周回遅れの処理やトラフィックに巻き込まれたくありません。
不利なセクションは遅れを少なくできないか試行錯誤して色々試します。先行しているときは抜かれないよう意識を後ろへ多めに持っていきます」。
同じ速さの相手に対しては一気に抜いてあとは抑える走り方をしたいが、一筋縄ではいかない。そこで相手の虚をつく走りをすることもある。
「お互いに得手不得手がわかってくると、先行車がブロックラインで守るコーナーと、レコードラインで突き放すコーナーが見えてきます。それまで相手がブロックラインで走っていたコーナーを広く回るようになったらチャンス。『まさか』のタイミングで相手の懐に飛び込んで抜き去ることもあります」。
車両特性として不得意なコーナーで抜いてはいけないというルールなどない。相手に隙を作らせるようにオーバーテイクを狙っているポイントを偽装することも駆け引きの妙味だ。