FRのライトウェイト(軽量)スポーツカーとして人気を集めるトヨタ86と2代目モデルGR86。今年2025年に富士スピードウェイで開催された86/GR86とスバルBRZのイベント、FUJI 86/BRZ STYLEには15,700人が詰めかける盛況ぶりで、人気の高さがうかがえた。そのGR86の現チーフエンジニアである坂本尚之さんに、GR86のこだわりや「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」などについて話を伺った。
ハチロクが大事にするもの
初代の86(ハチロク)というネーミングは、1983年発売の4代目カローラレビン/スプリンタートレノの共通型式番号「AE86」に由来する。AE86は通称ハチロクと呼ばれ、ファンやドライバーの間で今も根強い人気を誇る。このAE86にあやかった形だ。
そして2021年に86の2代目モデルとして登場したのがGR86。「GR」はトヨタが2017年から展開しているスポーツカーブランドの名称だ。
「ハチロクはスポーツカーとしては手の届きやすい価格で、後部座席があり生活の中でも使える実用性も兼ね備えています。そんなライトウェイトスポーツカーは、世界広しといえどもGR86とBRZだけではないでしょうか。そして限界性能を追い求めるスポーツカーではなく、初心者が運転技術を磨ける車。なによりも運転の楽しさに主眼を置いた車です」
これはAE86が好評だった理由のひとつでもある。GR86にもこれらの要素が受け継がれているわけだ。

「ハチロクの目指す乗り味は、これぞスポーツカーと感じられるワクワクするようなフィーリングや高揚感。それに気持ちの良いハンドリング。そしてこれはGR86だけでなく、GRモデルすべてに言えることでもあります。
それからなくてならないのは、タイヤのグリップの限界領域でも信頼できる人馬一体感。アクセルで車両姿勢を自由に操れる、相棒と呼べるコントロール性。これもGR共通で目指しています。限界領域を超えたときにどうなるかわからない車では、気持ちよく限界領域まで攻められないですからね」
また、トヨタの先代マスターテストドライバーの成瀬弘さんがよく言っていたという「先味・中味・後味」も大事にしている。
「先味は見て乗りたくなる、中味は乗ると楽しくてずっと乗っていたくなる、後味は降りてまた乗りたくなる。これが車には必要だよねと。そこも大切にしています」

パワーアップでより楽しめる2代目
GR86では排気量が先代86の2000ccから2400ccに上がり、最大トルク数は212Nmから250Nmへとパワーアップした。車重は少し増えたが、それでも1260キロと20キロ増に抑えた。エンジンパワーアップに合わせ、インナーフレーム構造によるボデー剛性の向上、そしてサスペンションやEPSのチューニングなども進化させ「86ならではの楽しさが実現できたのではないか」と坂本さんは語る。
「絶対的な速さの追求はしないとはいえ、もう少しトルクの余裕があると楽しみが増します。中速領域でのトルクが厚くなっているので扱いやすさがあり、ドリフトのコントロール性もよくなってより軽快に振り回せるようになりました」
車両のディメンション(寸法)も改善されている。カップルディスタンス(運転席と助手席の距離)は約7mm近づけた。重量物は車の中心部に近づけるほうがコントロール性がよくなるからだ。
さらにルーフをアルミにするなどで車両の重心高を4mm下げ、ホイールベース(前輪軸と後輪軸の距離)は5mm伸ばして安定性を高めている。
「ハチロクで一番大切にしたいのは運転の楽しさ、そして車との一体感です。だからGR86ではそうした方向への進化に取り組んでいます。手の届きやすい価格も大事なので、車両価格を抑えたうえでのアップグレードには苦心しますね」

前後重量バランス53:47の思想
一般的に車両の前後重量バランスは50:50が理想ともいわれる。それに対しGR86は53:47で、先代86も同じ割合だ。AE86は55:45だったという。
「FRのエントリースポーツカーとして、ハチロクではテールスライドや気持ちの良いハンドリングを楽しんでほしい。だからフロントに荷重を残してグリップさせて、リアをアクセルでしっかりコントロールできることを狙いました。
ただあまりリアを軽くするとトラクションがかからないので、47くらいは欲しいねと。そこで53:47という数字がひとつの解になりました」
フロントヘビーになりすぎないように、フェンダーをアルミ化したり、エンジンの位置を少し後ろに引いたりといった工夫もしているという。


