24時間耐久レース 決勝(16:00〜)
スタートドライバーへの想い、そして急転直下の判断
昨年スタートドライバーを務めさせていただいた際、その高揚感と楽しさが忘れられず、実は今回は1年前からスタートドライバーでお願いしますと「予約」を入れていました。気分はすっかりスタート一色。自分がその場に立つ姿しか想像していなかった……そんなレースウィークだったのですが、予報通り決勝スタートが予定されている午後になると、激しい雨が降り始めたじゃないですか。18時には上がるという天気予報は出ていたものの、こればかりは分かりません。
万が一スリックタイヤでウェット路面を走らざるを得ない状況になれば、当然ながら非常にリスクが高くなります。しかも今回は、過去最多の60台による大混走。コースは序盤から大渋滞になることが確実でした。雨上がりのスリック、かつ混雑したスタート。誰がどう見ても、かなり危険な条件です。
もちろん自分としては、どんなコンディションでも走りたい気持ちはありました。ただレースは「挑戦」であると同時に、「完走」が大前提。チームの戦略と安全を最優先に考えた結果、スタートはより経験豊富なドライバーに託し、私はその後を担当することに決めました。私が代わりを委ねたのは、藤原くん。彼ならどんな状況でも冷静に対処してくれるという安心感がありました。
15時スタート予定だった決勝は、雷と豪雨により1時間のディレイ。緊張感と期待が交錯する中、レース時間も1時間減らされ23時間となり、最終的に16時にスタートの合図が出されました。


混乱の決勝レーススタート!
豪雨の影響で、スタート時のコースは完全なウエット。ところどころに水たまりも残り、グリッドに並ぶ車両たちのヘッドライトが路面に鈍く反射していました。まるでこれから始まる長くて過酷な戦いを、象徴するかのような風景です。


スタートを託された藤原くんは、冷静かつ確実にポジションをキープしながら、難しいコンディションを着実にこなしていきます。路面が乾き始めたのは、スタートから約1時間後。とはいえライン上だけがかろうじて乾いているような状態で、タイヤの選択やピットインのタイミングは、各チームの腕の見せ所となりました。
我々は「慎重に状況を見極め、タイヤ交換の判断をギリギリまで引っ張る戦略」を選択。ラインを一歩外せばグリップを失う——そんな状況であっても、藤原くんは素晴らしいペースで周回を重ね、伊藤くんにバトンタッチ。伊藤くんはさすがの安定の速さでタイムを刻んでいき、次に私がバトンを受け取りました。

復帰後初の夜間走行、その洗礼
午後7時30分、私のスティントがスタートしました。復帰後初のナイトセッション。とはいえiRacingでの夜間走行練習や公式テストでの実走があったおかげで、不安はさほどありませんでした。が、今回ばかりはちょっと話が違いまして……。
まず状況が違ったのは、60台の混走。その密度は想像以上で、前も後ろも、とにかくレースカーだらけなのです。そして事もあろうに、クールスーツのパーツの一つが折れて故障してしまったのです!
“ちょっと!昨年より暑いじゃないの!!”などと思いながら走っていると、100Rからダンロップにかけての区間で、不意に鼻をくすぐる香ばしい匂いが流れて来るじゃないですか。“これ、ひょっとしてバーベキューの焼肉の匂いじゃないの??”噂には聞いていたけれど、本当に漂ってくるとは驚きでした。すごく美味しそうな匂いで、今すぐにでも食べたくなってしまう気持ちに(笑)つい“走行が終わったら、私にもお裾分けしてくれないかしら?”なんて、テンションも変に上がります。

とはいえ集中力は切らさないように、ライン取り、ミラーの確認、後方車両の速度感に全力集中です。走るに従い近づいてくる車のスピードから、ST-Xなのか、ST-2なのか、ある程度は想像できるようになってきました。けれど昼間以上に頭を使うのは当然です。
夜間走行は、「考えるレース」でした。
花火と煙、そしてFCYへ
そうしているうちにふと突然、18号車のウインドウ越しに、空を彩る華やかな大輪が見えました。富士24時間レース名物の花火です。心憎い演出に、少しだけ心が緩みます。が、風がなかったせいで、何と打ち上げが終わった頃から花火の煙がコースに滞留してしまい、100Rの視界が一気に真っ白になってしまうという、嬉しくないハプニングが起きました。


“これはまずいことになるかもしれない……”そう思った数周後、FCY(フルコースイエロー)が発動。最終的にはフルコースのセーフティカー(FC)に切り替わり、私はそのままピットイン。次のスティントの担当、武夫さんにバトンタッチしました。