ドライバーの声
参戦中のドライバーに話を伺った。参戦するドライバーたちには、それぞれの思いやクルマとのストーリーがある。
#28 濱野 弘介選手 1.5チャレンジクラス(ND)
レース歴 | 約2年 |
レースデビュー | ロードスターカップ |
年代 | 40代 |
居住地 | 神奈川県 |
目標 | 表彰台獲得 |
座右の銘 |
最も多くのエントラントを集めている、1.5LのNDで争われる1.5チャレンジクラスに参戦している濱野選手。同年代のGTドライバーに触発されて、レースへの参戦を決意した。最初はフォーミュラに挑戦しようと伊藤鷹志選手の走行会に参加。フォーミュラを継続しようと思ったが予算が合わず、後輪駆動で長く続けられる競技を探してロードスターにたどり着いたという。
レースの世界に足を踏み入れた段階で年齢は40歳を過ぎていたが、情熱に突き動かされてためらいはなかった。「同じように40代でレースを始めた方も周りには多くいるので、年齢を言い訳に立ち止まることはありませんでした」。
レースの魅力は低予算ながらに上位カテゴリーを目指せる道が整っていることだという。「1.5チャレンジクラスの上位陣はそのままスーパー耐久に参戦するドライバーも多く、若い人にとっても上が見えやすいと思います。私もスーパー耐久を目指しながら、別のレースにも出てみたいですね」。
ロードスターというクルマについての思いも伺った。
「マシンは昔ながらのマニュアルシフトと基本的な操作で速く走れる、操る喜びを感じられるクルマです。操る喜びは、同時にパワーにモノを言わせられない難しさでもあります。富士の第3セクターでは、少しミスをすると、すぐにタイムが2秒くらい落ちてしまいます。
そんな第3セクター、特に13コーナーは仲間でいちばん速く走れたことがあり、好きなセクションにもなりました。反対にコカ・コーラコーナーや100Rなどの高速コーナーは恐怖が勝ってしまい、まだ苦手なコーナーです」。
#23 山本 謙悟選手 1.5オープンクラス(ND)
レース歴 | 17年 |
レースデビュー | ロードスターカップ |
年代 | 40代 |
居住地 | 神奈川県 |
目標 | チャンピオン |
座右の銘 | 人間万事塞翁が馬 |
1.5オープンクラスで参戦初年度からシリーズチャンピオンを獲得し、シリーズ参戦している年度には必ずチャンピオンを獲っている山本選手を取材。20代の頃にツインリンクもてぎ(当時)で、現在も続くJOY耐に職場の社長のマシンで参戦したことがレースキャリアの始まりだった。
自分で作り込んだS2000で富士スピードウェイのスピードトライアルやJOY耐に出場し、2018年にスーパー耐久デビュー。2023年には2度のクラス優勝を飾っている。
「富士のスピードトライアルでは負けなしの状態で大阪に行き、レース仕様のS2000を買おうとしたら『腕に自信があるならレースしなよ』と言われ、鈴鹿のクラブマン耐久にS耐仕様のマシンで出場しました。その後、S耐に出てプロと同じ舞台で走ったら86で2秒も離されてしまい、自信が折れました。
ロガーなどで分析した結果、『これは手も足も出ないぞ』となり、ドライビングを練習しまくりたいと思った矢先にホンダの743号車に乗る機会をいただきました。チームメイトの開発ドライバーはプロレーサーではありませんでしたが、クルマを正確に動かす運転がとにかく上手い。基礎からクルマの動かし方を叩き込んでもらいました。
もっと基礎を鍛え上げられる場所はどこだ、と考えてワンメイクレース出場を決意。そうしてロードスターを探していると、前年まで使われていたレース車両がドライバーの引退で流れていたので購入し、ロードスターカップに参戦しました」。
改造範囲が広くて空力パーツも付けられるロードスターカップのマシンはカッコいいという山本選手。ロードスターカップの車両は吸排気なども改造できる。富士スピードウェイのラップタイムはスーパー耐久車両とほとんど変わらないという。
「ロードスターカップでトップを走れていれば、S耐(スーパー耐久・ST)5クラスは余裕でトップを走れます。ぶっつけで走れるくらいです。一方、速い状態にマシンを持っていくセットアップが難しいです。運転したときにフィードバックを感じて、エンジニアリングに活かすセッティング能力も要求されますね。」
ロードスターは軽量な代わりに非力なクルマだ。富士スピードウェイは走っていてとても楽しいが、丁寧なコントロールが難しいと教えてくれた。
「アクセルを踏むのが早すぎるとリアが流れてタイムが落ちます。アクセルオンが遅くてもダメ。アンダーステアもオーバーステアも出さない絶妙なコントロールが必要です」。
今年の目標は運転が上手くなること。チャンピオンシップをリードしながらも謙虚に自分のドライビングと向き合う姿勢がうかがえた。
#77 長岡 哲也選手 2.0オープンクラス(NC)
レース歴 | 約7年 |
レースデビュー | ロードスターカップ |
年代 | 50代 |
居住地 | 神奈川県 |
座右の銘 | 継続は力なり |
20代の頃はRX-7などで富士スピードウェイを走っていたが、結婚を機にサーキットからは遠ざかっていた。友人に誘われて参加した筑波サーキットでの走行会で20年のブランクを経て10年前にサーキットにカムバックしたという長岡選手。
FR車への熱が再燃し、毎週カマロやコルベットで富士スピードウェイを走行していたが、アメ車のレースはなかなか開催されていない。そこでお手頃に始められるFR車のレースを求めてロードスターカップを見つけたという。
「富士スピードウェイでFR車のレース…という条件の答えがロードスターカップでした。86/BRZは少しお金もかかりそうで、もう少し手ごろに出られるレースがいいという思いにもマッチしました」。
中古で70万円のNB型2.0Lモデルを購入し、ワイルドスピードX2のブライアンが乗っていたR34型スカイラインと同じカラーリングに仕上げた。
「マシンは仕事のノウハウを使って、可能な限り自分でメンテし、エンジンなどはショップに依頼しています。ロードスターはクルマとの一体感があって楽しいですよ。限界走行をしなくても、自分の手足のようにひらひら動く感覚は、他のマシンでは得られない感覚です。人にやさしいクルマだと思います」。
そんなロードスターは、タイヤの状態さえ良ければ、100Rを全開で駆け抜けられるという。取材日にはそれが上手くいき、レコードタイムを更新した喜びに浸っているところだった。一方で第3セクターは攻略中。フロント荷重を作るためにハードブレーキをすると、軽量な1.5L車に詰められてしまうという。
ロードスターカップに参戦して7年。レースを熟知した長岡選手に、ロードスターカップの魅力を伺った。
「最年長は62歳の方もいましたし、下は10代から参加者がいます。カジュアルにレースを楽しんでいる人もいれば、本気で上を目指している人もいる。レースが始まればどんなバックグラウンドの人も真剣勝負ですが、裾野の広さは魅力です。
クルマや技術と向き合い、努力の結果として経験値が積み上がっていきます。継続が成長に必要なことは商売でも同じですね。レースを通じてクルマのことがわかってくるし、自分の改善点も見えてくる。だんだんクルマと一体感が出てきます。仕事みたいな感覚でレースに出ています」。
「峠の走り屋だった若い頃よりも、間違いなく今の方が速い」と言い切る眼光は、老眼鏡越しにも鋭い。同じカテゴリーで戦っていた最年長選手の62歳まで続けることが目下の目標だという。
「せっかく始めたんだから、行き着くところまで行って、周りから『もうやめなよ』と言われるまで走りたいです。そういうエネルギーがあると、どんなことでも楽しめますよ」。
写真:松下典宏 &Race編集部