モータースポーツを盛り上げるために
三上 新東京サーキットを通じて、モータースポーツをどのように盛り上げていきたいですか?
1995年をピークに日本のモータースポーツ人口は減少していて、現在は当時の1/4から1/8程度というのが私の試算です。少子化とはいえ日本には1億2,000万の人口がある。モータースポーツ市場の縮小は人口動態の影響というより、私たち業界の人間の努力が足りないんです。
カートは周りに聞くと、老若男女問わず、「面白い」と言うんです。人間が根本的に楽しいと思う要素の多くがモータースポーツには詰まっているんでしょうね。だからまずお客様に来てもらえる場所を作り、また来てもらえる仕組みづくりが大切だと考えています。

三上 子どもから大人まで例外なく楽しめるということですね
若濱 私は子どもに来ていただくことに注力しています。モータースポーツをやっているお子さんは、自立心が早くから芽生えていると思うんです。カートを始めたころは普通の子どもという感じでも、半年くらい経つと敬語を使ったりして、一気に大人びてくるんです。たとえば十代のレーサーは言動がとても熟成されていますよね。
それは自分で安全を守る必要があるからではと思います。サーキットに出ると、子どもが子どもでいられなくなります。事故が起きる瞬間に、親から守ってもらえないわけですから。クラッシュやスピンで危険を体感して、危険を回避する、抑制する。自分の身を自分で守るということをサーキットの中でずっとやっているんです。
だからモータースポーツは子どもの自立心を育てるために、とても有効なのではと考えています。子どもの成長過程でモータースポーツに触れることで、教育的なシナジーを生み出せるのではないかと。そこでいくつかの提携先と具体的な話をしています。
三上 多くの学びがありますね
若濱 いつも学ばせてもらっています。モータースポーツは大きなマーケットであるはずなのに、どこか自立できていないところがある。新東京サーキットは健全な黒字経営をしながら、継続的に発展できるサーキットを目指しています。
いずれ私から誰かに経営を引き継ぐときがやってきますが、そのときにも健全な発展を続けられるようにしています。
三上 具体的にどう発展させていくのでしょうか?
若濱 新東京サーキットに来る方はここを「自分の場所」だととらえていて、「私は」という主語でサーキットについて語ることが多いんです。最初はその雰囲気に違和感を覚えていましたが、それはお客様が主体的に表現できる場所であるということ。これを強みに、来場された方が走りや自分自身を表現できる場として発展させていきたいですね。

新東京サーキットの表現空間は広がっている
新東京サーキットでは実際に来場者の声を受けて、複数クラス混走形式の24時間耐久レース「スーパー耐久レース」など、幅広いカテゴリーのカートレースを開催している。自分が限界に迫れるカートに乗り、ライバルとしのぎを削るコース上の空間は、ラップタイムという形の自己表現を可能にする。
若濱氏が「社会の財産」と語るサーキットで過ごす時間は、もっと多くの方に知ってもらいたい至福のひとときだ。サーキットは速くなりたい人専用の空間ではない。ハンドルを握り、アクセルを踏み込んだ瞬間にだけ訪れる高揚を、あなたにも味わってもらいたい。