モータースポーツの第一歩はカート。誘われて始めて乗ったという方もいれば、レーサーを目指して乗るという方もいるだろう。カートは運転未経験でも楽しめるほどカジュアルだが、F1ドライバーがトレーニングに使うほど奥が深い。カートに乗り続けてSUPER GTへの道を切り開いた甲野将哉氏の解説の元、カートの初歩的な走り方から始めて上達への道のりを探って行く。
カートに乗ろう
モータスポーツやスポーツ走行の経験が全くない場合、まずは4ストロークエンジンのレンタルカートがいいだろう。特別な資格は一切不要だ。たいていのサーキットでは運転免許すら要求しない。遊園地のゴーカートに乗るくらいのつもりで肩の力を抜いてほしい。
レンタル料金の相場は1走行7分で2,000円前後。短いと感じるかもしれないが、未経験者が全開で走れば3セッションで疲れ果てる。最高速度は60km/h程度。地上高が非常に低いので、体感速度は100km/hを超える。
「その先を求めるのであれば、ぜひレーシングカートにチャレンジしてください。まずは2ストロークの「KT」がオススメです。レンタルの4ストロークと比べて段違いの加速力やクイックさを味わえるでしょう」。
レーシングカートの上にはジュニアフォーミュラがあり、その先には言わずと知れたSUPER GTやF1などがある。世界に羽ばたける人材は一握りだが、裾野は広く、来るものを拒まない。近年は初心者対象のレースも多い。レンタルカートの世界選手権も開催されており、今から乗り込むマシンと世界大会は地続きだ。
「カートショップでたいていのレーシングカートはレンタルできます。スーツやヘルメットなども貸してくれるところが多いので、マシンも装備も購入せずに走れます。
気になるショップを検索して『レーシングカートに乗りたいのですが1日レンタル出来ますか?』の一言でいいので、気軽に問い合わせてみてください。思った以上にリーズナブルな場合が多いですし、カートショップの方は慣れているので親切に教えてくれます」。
まずは全開で走ってみよう
まずはストレートでアクセルを全開に踏み込み、スポーツ走行の世界に飛び込んでみよう。最初からトップのタイムを狙う必要はない。怖くない範囲で走れる領域を理解しながら、少しずつ広げていくことが重要だ。
思っているよりも遠くを見よう
「最初は大きな個人差があると思います。運転経験の少ない人でもセンスがあれば、ラインを取ってタイムを狙える走り方ができる方もいました。焦る必要はありません。まずは視線を少し上げて、思っているよりも遠くを見てみましょう。たとえばコーナーに入る段階でコーナーの出口を見る。コーナーの出口では次のコーナーを見るといった具合です」。
遠くを見ると自分が通るべきルートが見えてくる。徒歩でも足元のタイルを見ながらでは怖い。走るときはゴール地点を見ているはずだ。カートでも少し目線を上げて遠くを見ると、恐怖心がやわらぐ。
また視野が広がるので、シグナル標記やチェッカーフラッグの見落としも防ぎやすくなる。コース上でスピンしているクルマの早期発見など、危険回避にも有効なのでぜひ心がけてほしい。
コース幅を目いっぱい使おう
コーナーは直線的に走った方が速くなる。ときおり例外もあるが、基本的にはコーナーの外側からクリップと呼ばれる、最も内側に入り込む地点を通過して、コーナーの外側に向けて脱出していく(アウト・イン・アウト)。旋回半径を大きくすることでコーナー中の最低速度(ボトムスピード)が上昇する。
最低速度はタイムを最も大きく左右する要素だ。コーナーの脱出速度が10km/h上がれば、次のストレートを10km/h速い状態から加速できる。
コーナーはアウト・イン・アウトで
コーナーでは、曲がり切る前から少しずつアクセルを踏んでいき、脱出時点で全開にする。出口側でコース幅を目いっぱい使うには、アクセルをなるべく早く踏んでいく必要がある。しかし、ここでも無理は禁物だ。冷静に判断できないようなスピードでコーナーに突っ込み、無理やりアクセルを踏めばマシンは簡単にスピンする。
「初心者の方は進入や脱出でコースの端まで行くのが怖いと思います。ハンドル操作でアウト・イン・アウトを再現しながら、少しずつコース幅いっぱいまで使えるようになるといいでしょう。コーナーが急カーブにならないので体も楽で、スムーズに走れます。
体が楽だ、怖くない、と思えてきたら徐々にスピードを上げていく。そうするとコーナーの速度が速くなるので、自然とタイムも縮んできます」。
「アウト・イン・アウトで走れるようになってきたら、アクセルを踏むタイミングを少しずつ早めてみましょう。限界まで早められたら、次は直線でアクセルを踏んでいる時間を伸ばし、ブレーキを踏んでいる時間を短くする番。できる範囲で少しずつ早く・強く・スムーズに操作することに挑戦です」。
考えた改善点を実行していくと、タイムはどんどん伸びていく。レンタルカート場では走行後にタイム表をもらえることが多く、タイムが伸びていくのを見ると心が躍る。
友人とサーキットに行けば「あそこのコーナーはもっと早くアクセル立ち上げちゃっていいんだね」など会話が弾むだろう。
そうやって少しずつタイムを伸ばしていくと、初心者は必ずタイムの壁にぶつかる。繊細かつ強力な操作が要求されることを肌で感じると、カートの奥深さと難しさの魅力になるはずだ。
次回:コースを攻略しよう
次回は最初にぶつかるタイムの壁を打破する対策として、コーナーの組み立てを解説していく。アウト・イン・アウトさえできていればコースは攻略完了!とはならないことがカートの面白さだ。