X30マシンの特徴
4輪車との違い
4輪車(ハコ車)とカートの違いは、全てが小さく、スピーディーなことだ。1分以内に周る1km未満のコースには10以上のコーナーがレイアウトされ、右へ左へとドライバーを揺さぶる。サスペンションがなく、座面は地上高10cm。身体をむき出しにして地面スレスレを100km/h以上で走れば体感速度は200km/hを超える。
「しかしコーナリングスピードはハコ車と大きく変わりません。つまり、狭いコースを高いスピードで小刻みに周るため、息をつく暇がなく疲れます。ハコ車であればストレートで休憩できますが、カートは常にGを受けながら操作します。
また、サスペンションがないため、ハンドルを切ってからマシンが左右に動くまでの時間が非常に短いです。フルサーキットに比べてコース幅が数分の一と細いため、狭い場所で素早く精確に動かす技術が求められます」

他のカートと比べての特徴
短命なハイグリップタイヤが体力を奪う
今回は主に入門レーシングカートのKTと比べてどのようにレベルアップしたカートであるかを解説してもらった。トップスピードが約20km/h高く、ハイグリップタイヤのスペックも相まって鈴鹿サーキット国際南コースのラップタイムはKTよりも約5秒速い。
ハイグリップ、ハイスピードなマシンはドライバーの体力を容赦なく奪う。「コーナーの外側に首が持っていかれて戻せなくなる現象を、レーサーはよく『首が折れる』と表現します。X30はKTよりもはるかに首が折れやすいマシンです」
首が折れたり、腕が疲れたりして運転の精度が落ちると、マシンのスライドをコントロールできなくなる。スライドはタイヤを蝕み、傷んだタイヤはさらにスライドしやすくなる。
「タイヤが傷む悪循環に陥らないためにも体力を鍛え、タイヤの状態を把握する感覚を磨くことが重要になります」
タイヤマネジメントが重要
タイヤのグリップと寿命はトレードオフだ。レースを通じて全力でアタックできるKTとは異なり、X30はタイヤマネジメントがレースの勝敗に響いてくる。
「予選から決勝まで、全体を通してのタイヤマネージメントが必要になります。タイヤを残しておくことは重要ですが、使い切らなければもったいない。だからバトルは決勝の終盤にスパートをかける場面で多発します」

X30の走らせ方
X30でレースに勝つためにはタイヤマネジメントやブレーキ踏力など、KTに乗ってきたドライバーが新たに身に着ける必要のある技術が多い。代表的なタイヤとブレーキの使い方について解説してもらった。
タイヤの使い方とライン取り
全開アタックタイヤを続ければ、早く摩耗する。タイヤは予選から決勝で1セットしか使えない。つまり予選アタックは可能な限り早く切り上げた方がいい。理想は計測1周目でアタック終了だ。その予選アタックでもライン取りによってタイヤの持ちは変わる。
「ひとつひとつのコーナーでライン取りをKTよりも繊細に行う必要があります。タイヤひとつ分でもイン側からコーナーに入ればタイヤの摩耗は激しくなります。コース幅を目いっぱい使いましょう」
ブレーキの使い方
X30エンジンを搭載するマシンは、力強い制動が特徴だ。KTのブレーキは主にきっかけ作りや荷重移動を狙って行われるが、X30のブレーキはしっかり踏み込んで「止める」必要がある。
「X30にステップアップしてきたドライバーはブレーキ踏力が足らずにマシンを止めきれないことが多くあります。X30はハイグリップタイヤも相まって制動距離が短く、ブレーキ時のGが激しいマシン。身体でGを受け止めながらマシンを止め、旋回に活かしていくことが重要になります。
技術も大切ですが、Gを受けても精度の落ちないドライビングを可能にする体力が要求されます。私も最初は体力的な余裕がなく、マシンを抑え込めませんでしたが、少しずつ体力がついてくると、クルマの走らせ方をより深く知ることができるようになりました」
キャブレターの調整
KTではハイだけだったキャブレターの調整域が、X30ではローにも及ぶ。調整する項目が倍になるだけでなく、感じ取る必要があるトルク感も比例して増加するため、X30にデビューしたドライバーを大いに苦しめる。

登竜門のX30クラスはシビアな戦いの世界
カジュアルなレースを楽しめるKTや、ジェントルマンの参加者が多いROTAX MAXと比べ、X30は上を目指す若者が主役のマシンだ。レースのレベルは安定して高く、ドライバーラインナップも頻繁に変わる。
X30のレースは体力と技術を両立させたドライバーだけが頂点に立てる激戦区だが、あえてここを自分の限界を試す場に選ぶジェントルマンも少数いる。
慣れ合いはいらない。一番速いカート乗りになりたい。そんな人がたどり着いてしまうマシンがX30だ。