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Home»独占インタビュー»走りの楽しさにこだわりたい-トヨタGR86現チーフエンジニア坂本尚之さん
独占インタビュー

走りの楽しさにこだわりたい-トヨタGR86現チーフエンジニア坂本尚之さん

2025.12.1三上 和美
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こだわりの共同開発車

86/GR86はトヨタとスバルの共同開発車だ。協業当初は、企業文化が違い開発用語も違うなどそれぞれの当たり前が異なるなかで、リスペクトしながら議論を交わしあい作ってきた。

  • ハチロクが大事にするもの
  • パワーアップでより楽しめる2代目
    • 前後重量バランス53:47の思想
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  • こだわりの共同開発車
    • 生産開始が遅れた理由
    • 思いをまとめるチーフエンジニア
  • S耐参戦で「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」
    • レース経験を市販車へ活かす
    • 共同開発にもメリット
  • 次ページ:ハチロクは「おいしい素うどん」
  • ハチロクは「おいしい素うどん」
    • 最後にメッセージ
      • 坂本尚之さん
        • 最先端施設・トヨタテクニカルセンター下山

GR86の開発はおもにトヨタが企画しスバルが開発・製造をしている。「実際に開発するのはスバルさんですが、どういう車にしたいかトヨタから具体的な性能要件を出し、一緒にクルマを評価し、議論しながら開発してきました。完全お任せではないんです」

この共同開発でスバルからはBRZが発売されている。基本構造やエンジンは両車とも同じだが、違う部分ももちろんある。

「たとえばフロントのナックルは、BRZは軽量化のためアルミです。それに対しGR86は鉄を使っている。アルミと同じような剛性にしていますが、いろんな領域で評価すると鉄の方が勝っている部分がある。アルミの軽さもいいのですが、GRの味つけとしては鉄を使いたいと」

リアスタビライザーの取り付け箇所も異なる。BRZはボディを中心にスタビライザーを動かすという考えでボディにつけ、GR86は応答性という観点からサスペンションメンバーにつけている。他にもスプリングやアブソーバーのセッティングが違うという。

「だからまったく同じ車ではないですし、そうした違いにトヨタとスバルそれぞれのこだわりが出ています」

28号車TGRR GR86 Future FR concept(スーパー耐久 ST-Qクラス)

生産開始が遅れた理由

そのこだわりは、スケジュールの変更も辞さないほどだった。

「生産開始直前になってうちのマスタードライバーのモリゾウ(豊田章男会長のドライバーネーム)が、これちょっとハチロクらしくないよね、と言ったんです」

ハチロクはスポーティな車じゃなくて、ダイレクトにスポーツ走行ができる車のはずだ、と指摘したのだという。

「やはりハチロクはもっと機敏に動くところを尖らせたい。それで最後の最後にやり直して、GR86は生産開始が遅れました」

思いをまとめるチーフエンジニア

チーフエンジニアは開発チームをまとめて車づくりをすすめていく総責任者だ。どんな車にするか、どう開発するかを決めていき、企画・開発設計・生産など全行程に責任を負う。

「ハチロクには開発陣にもそれぞれの思いがあります。そのさまざまな思いを一つの方向にまとめていく、一枚岩にするのがチーフエンジニアとしての大きなチャレンジです。協業なのでスバルさんとも思いを一つにしなければいけない。そこが共同開発の難しさでもあり、面白さでもあります」

61号車 Team SDA Engineering BRZ CNF Concept(2024年までスーパー耐久 ST-Qクラスに参戦)
Team SDA Engineering BRZ CNF Concept

S耐参戦で「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」

トヨタが掲げる「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」のもと、GR86はスーパー耐久にST-Qクラス(まだ市販されていない開発車両クラス)から参戦している。

なぜ車の開発をモータースポーツ起点で行うのだろうか。

「トヨタは組織が大きいので、開発の際はエンジンやトランスミッション、シャシーなど各コンポーネントに目標設定値を割り当てる。それが達成すれば開発は終わる。ドライバーがなにかおかしいと思っても、目標は達成されているので改善がすすみにくい。そういう課題はありました」

それに対しモータースポーツは勝つことが第一。ドライバーが違和感を感じていたら勝てない。だからドライバーがおかしいと言えば、皆が一丸となって改善に向けて努力する。データに現れていなかったら、エンジニアはデータの取り方を変えるなどの工夫をする。

「車を軸に心を一つにし、ドライバーを軸に皆が動くのがモータースポーツの現場。豊田章男会長がモータースポーツ起点のクルマづくりを進めたのは、そこにいいクルマづくりへのヒントがあると感じていたから。僕らもそれをスーパー耐久で感じることができました」

勝つために開発することで技術は進化する。次のレースへ向けてアジャイル(機敏)に開発を進める。そのためにも勝ちにはこだわるが、主目的は速い車を作ることではない。ドライバーが扱いやすく楽しく運転できることだ。

「スーパー耐久やニュルブルクリンク24時間は量産車で参戦できて、トッププロからジェントルマンまで様々なスキルの人が乗ります。皆が扱いやすく長時間乗っても疲れない車は、結果的に速くなる。耐久レースは量産車を鍛えられる場だと思います」

いい車を作るために、まずドライバーが何を思い何を感じたかを重要視する。そしてドライバーの操作性や快適性を最優先する。まさにドライバーファーストの思想だ。

シェイドレーシング GR86 (スーパー耐久 ST-4クラス)

レース経験を市販車へ活かす

レース出場で培われたチューニング技術は、市販のGR86にもフィードバックされている。ステアリング操作のダイレクト感やアクセル操作に対するコントロール性など、車との一体感に関する部分が中心だ。市販車のチューニングにあたっては、スーパー耐久でGR86のステアリングを握った大嶋和也選手も関わっているという。

また、オプション販売されている強化ミッションやファイナルギアのセットなども、レースで得た経験をもとに作られている。

共同開発にもメリット

スーパー耐久参戦は、スバルとの協業の深化にもメリットがあった。

「お互い車の開発が仕事とはいえ、エントラントとして参戦するとより当事者意識を持ちます。それにサーキットだとフランクに会話ができる。サーキットで走るマシンを見て、そしてファンに応援してもらえると、もっといい車を作ろうという情熱がよりいっそう同じベクトルで育っていきます。

モニタ越しのオンライン会議での開発ではなく、モータースポーツの現場で車やファンの笑顔を見ながらやる。スーパー耐久に出場してから、より深い関係になれました。協業のステップが上がりました」

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