ミッショントラブル、そして再スタート
夜が深まり武夫さんが順調に周回を重ねていた矢先、突如「5速と6速に入らない」という無線が入りました。ピット内にはその瞬間、時が止まったような空気が流れました。
しかし、ここからが浅野レーシングの真骨頂でした。武夫さんはマシンから降りると、ヘルメットを脱ぎ、レーシングスーツのまま迷うことなくボンネットを開け、マシンの状態を即座にチェック。そしてそのままピット奥へと駆け込み、瞬時に作業着へと着替えて修理作業に取りかかったのです。
その姿はまさに圧巻。一分一秒を惜しむように動くその背中に、「本物のプロフェッショナル、レジェンドとはこういう人だ」と心を打たれました。こんな人、世界中どこを探してもいません。
同時に、メカニックたちも師匠の呼吸にぴたりと合わせ、阿吽の連携で作業を進めていきます。結果、わずか30分でミッション交換という大仕事をやってのけてくれたのです。夜の静寂を破って再びコースインする18号車。そのテールランプが闇に消えていく刹那、思わずこぼれそうになった涙を堪えることができませんでした。
“優勝は少し遠くなってしまいましたが、チェッカーは絶対に受けます!!”



赤旗、霧、そして夜明けへ
ミッション交換直後、ST-ZクラスとST-2クラスの大きなクラッシュにより赤旗中断。その修復作業が終わったと思ったら今度は深い霧が富士を包み込み、再び赤旗中断です。静まり返ったピットに、ただただ時間だけがゆっくりと流れていきます。この時を利用して各チームのメカニックさんも仮眠をとり、再開の時を待っているようでした。


ようやくレースが再開されたのは、明け方の空が白み始めてからのことです。夜明けとともにコースもクリアになり、戦いが再開。そして午前9時、再び私の出番が巡ってきました。
2本目の朝の走行、喜びに満ちた時間
コースインしてすぐに感じたのは、「見えるってなんて素晴らしいんだろう」という純粋な感動でした。前方も後方も視界がクリアで、路面もハッキリ。さらには、クールスーツがちゃんと作動していて涼しい……。これはもう天国です(笑)(クールスーツはミッション載せ替え時に修理しました)
夜間の苦労があったからこそ、この明るい時間帯のドライブが本当に楽しく感じられました。マシンとの対話もスムーズになり、“もっと走りたい、ピットに戻りたくない”と思えるほど気持ちよく、43周を走り切ることができました。
周囲のマシンの多くには修復の跡が見られ、このレースがどれほど過酷だったのかを雄弁に語っています。そんなサバイバルを生き残り、「チーム一丸となってマシンをここまで運んでこられたこと」それが何と誇らしく感じられることか!
最後は芝さん、そして武夫さんへとバトンが繋がれ、浅野レーシングサービス WedsSport GR86はゴール時間の15:00を迎え486周を走り切り、クラス5位でフィニッシュしました。



