青森県八戸市で生まれ育った佐々木光選手。強豪ひしめくロードスター・パーティレースで、実車レースのルーキーイヤーにして4戦2勝、シミュレーターでのフォーミュラレースでは世界チャンピオンに輝くなど、非凡な速さを見せ続けている。さらに昨今は自らの技術を教える側にも周り、Racing School GoTakeのインストラクターをも務める。
20万円のシルビアで走り始めた学生時代から現在までの活躍を追う。
憧れのドリフトでモータースポーツの世界へ
高校生までの学生時代、佐々木選手はD1グランプリや『Video-Option』、『Best Motoring』などのDVDを見てはドリフトへの憧れを募らせていた。しかし、一般家庭で過ごした少年時代にカートを始めることは叶わず、生活とモータースポーツは無縁の日々だった。
高校卒業後、自動車整備士の専門学校に進学し、免許を取得したことでドリフトへの想いが爆発。父親に頼み込んでナンバー無しのS14シルビア(K’s)を約20万円で購入してもらった。ちなみに憧れのクルマはS13やS15シルビアだったが、縁のあったオーナーの都合でS14になったという。さっそく地元である青森県八戸市からほど近いモーターランドSPで走り込みを始めた。
「プロになりたいんです。ドリフトを教えてください!」佐々木選手は、D1グランプリで優勝した小橋正典選手の父、小橋勝利氏に教えを頼み込んだ。勝利氏はモーターランドSPの設立者にして、小橋正典選手をドリフトに導いた張本人。専門学校での授業が終わり次第クルマを飛ばしてサーキットへ行き、日が沈むまでシルビアを走らせた。


「ドリフトはリスクの高い走行スタイルで、壁やタイヤバリアに突っ込むことは日常茶飯事です。エンジンやミッションのブローも頻発しました。故障は自分で修理しながら技術を磨いていきました。新しいエンジンは2回ブロー。その後に350ps仕様のS14シルビアを知人から譲り受けました」
佐々木選手はモーターランドSPでのドリフト競技に挑戦し始める。ドリフト歴わずか3ヶ月、学生らしい金欠から、他のドライバーが捨てた廃タイヤでの参戦だった。ここで早速才能と努力の結果が目を出し始める。
「単走では人生で唯一、現在FORMURA DRIFT JAPANなどで活躍するカンタ選手に勝てました。追走での最高成績は4位。当時は同じ競技に小橋正典選手や中村直樹選手も出場していたので、かなり健闘したと思います」
しかし若さゆえに味わった苦い思い出もあるという。初優勝の後、喜びを噛み締めながらインタビューを聞いていると、佐々木選手に敗れた同い年のライバルが「悔しい、もっと練習します」とこぼしていた。「俺も負けていられないぞ」と思い切った走りをしてみたところクラッシュを起こし、修理の日々に逆戻りした。
シミュレーターとの出会い
ドリフトを続けるている最中の2021年、モーターランドSPにシミュレーターが導入された。勝利氏から誘われるまま試しにプレイしてみたところ、想像以上の速さを見せることができた。「インタープロトeシリーズ(IPeS)に出てみなよ」瞬く間にe-スポーツデビューが決まった。
「仕事終わりにサーキットの事務所で練習を重ね、毎日深夜まで走り込みました。土日の日中は昼間から入り浸り、事務所の鍵を渡されたことも。毎晩帰る理由は”電気代が高くなって怒られそう”でした。シミュレーターは疲れますが、それ以上に難しさと勝てない悔しさから飲み物とトイレ以外は走りっぱなしでした」


しかし初の大会では、周囲とのレベル差を痛感。レース経験も練習仲間もいなかったため、YouTubeで情報を集めるしかなかった。速いドライバーが所属するチーム勢とは練習環境も情報量も大きな差があり、孤独な戦いだったという。
「チームに所属しているか否かで練習の質が大きく変わります。速い人は周りのドライバーの技術を引っ張り上げられますが、自分一人での練習では、比較対象が自分しかいません。同じマシンでもタイムが出やすい環境、出づらい環境など、情報があらゆる面で不足していました」
環境が整ってきたのは2022年。2021年にIPeSシリーズ3位となって獲得した賞典のSIMUCUBE 2 SPORT(シミュレーター用モーター)を軸に、自宅でシミュレーター環境を構築した。練習で経験不足を補い、オンラインレースで速いドライバーの技術を盗んだ。
目標はシミュレーター「iRacing」の強豪チーム「ZENKAIRACING」に追いつくこと。当時はデータから走りを解析する技術がなかったため、リプレイ映像で速いドライバーを分析した。2022年シーズンもIPeSへの参戦は続け、2022年末に富士スピードウェイで開催されたIPeS特別戦にも参戦した。
同レースはGT500ドライバーの坪井翔選手なども参戦しており、プロに勝てれば実車レースのテストを受けられるという賞典が設けられていた。「富士に行ってこい」またもや勝利氏から背中を押されて青森を出た。ここでリアルのレースへとキャリアを繋ぐことはかなわなかったが、2022年には別の転機が訪れた。
「ドリフトも続けていましたが、タイムを追う走り方が自分の性格に合っており、活動の軸足をドリフトからシミュレーターに移していきました。iRacingで現在も所属しているコミュニティに参加したことが大きな転機でした。しかし、参加の経緯はオンラインで暴れていた僕を注意してくださった方の招待で、当初はとても気まずかったです。オンラインサーバーのチャットには僕が晒されていて、まずは謝罪からのスタートでした」
同コミュニティでジュニア・フォーミュラのFF1600を猛練習した佐々木選手はオフィシャルレース「Sunday night Lights」に参戦。iRacingにおけるFF1600の世界一を決める同大会で2023年に世界チャンピオンに輝く。国内のFF1600レースでも優勝し、筑波サーキットでのFJ1600走行に、開催者のELEV Racing Dreamから招待された。
