レンタルカートは、老若男女がカジュアルに楽しめる一方、プロドライバーがトレーニングに活用することもあるほど奥が深い。今回はレンタルカート出身で世界大会にも出場し、現在は全日本カート選手権やスーパー耐久で活躍するRacing School GoTakeインストラクター川福健太氏に、ステップアップの道しるべをアドバイスしてもらった。
レンタルカートでステップアップするための前提知識
「さあレンタルカートで世界を目指すぞ!」とモチベーションが上がったら、基本になる知識をおさえておこう。
近年の大きな大会はほぼ全てSodiのSWS
世界でシェアの大きいレンタルカートはSodiシリーズとBirelのN35の2種類。かつてはN35のシェアがメインだったが、2023年現在ではSodiのほぼ一強状態になっている。国内で開かれている大会もSodiの大会が支配的で、現在開かれている世界選手権もSodi World Series(SWS)が最大規模だ。
SWSはSodiマシンで争われる世界共通のフォーマット。日本中のSodiを導入しているサーキットでSWS規格のレースが開催されている。SWSは有効ポイントでランキングが決まる制度になっており、上位ランカーには全国大会のオファーが届く。全国大会での上位ランカーには世界選手権へのオファーが届く仕組みだ。


「私が世界大会に出られることが決まったあと、Sodiから参加の意思を確認するメールが届きました。『世界に行けるぞ!』と胸が躍りました」。
SWSを開催しているサーキットは非常に多く、クルマを数時間走らせれば全国どこからでも有効ポイントを稼げるだろう。ポイントはレースの参加台数によって変動する。大人数のレースで勝ちまくると世界大会がぐっと近づくため、本気のレンタルカート乗りは賑わうサーキットでのレースに欠かさず出場するという。
世界大会は個人で争うスプリントレースと、チームで争う耐久レースに分かれている。国内のレースもそれに応じて別々に開催されているため、自分が出場したいレースフォーマットを吟味してからエントリーするといいだろう。
SWSが特別なスカラシップを用意しているわけではないが…
残念ながら、SWSでの優勝が直接他の競技への足がかりになることはない。レーシングカートのチャンピオンシップでは優勝者に上位カテゴリーへのスカラシップが用意されていることもあるが、SWSの場合は特にステップアップを支援してくれるわけではない。
しかし、川福氏はSWSの世界大会World Finalで3位の成績を残した後、JAPAN KART誌での連載企画や、各施設の企画にゲスト参加するなど、モータースポーツシーンで露出の機会が増えた。


「やる気とめぐり合わせ次第なところはありますが、私の場合は世界選手権の肩書が活動の場と輪を広げるきっかけになりました。『これまでどんなキャリアを?』と聞かれたときに胸を張って『レンタルカートです』と答えられる程度には、レンタルカーターが他カテゴリーで通用するという共通認識が醸成されていると思います」。
映画「グランツーリスモ」で描かれたGT500ドライバーのヤン・マーデンボロー選手はゲーム出身。モータースポーツに参入する形が幼少期からのレーシングカートだけではないことは、周知の事実になりつつある。
まずは近場のレースに出てみよう
レースへのモチベーションが高まってきたら、まずは近場のサーキットで開催されているレースに出場してみよう。サーキットによっては、初めてのドライバー向けにフレッシュマンクラスを設けている場合もある。いきなりセミプロだらけのレースに放り込まれて置いてけぼりになる不安は無用だ。
「レンタルカートは手軽で、同じコストで多くの走行ができるため、車両感覚やバトル経験を積むことができます。毎週どこかしらでレースが開催されているため、2、3年走り込んでいれば経験値的にはベテランの域に達するでしょう。そのスピードは4輪車でサーキットを走る5倍、10倍のスピードだと思います。
故障の心配をあまりせずに乗り倒せるため、走りに集中できます。レースや走行を重ねていると自分の調子もわかるようになってくるでしょう」。
世界を目指して戦ってみよう
SWSの頂点にあるSWS World Final。世界の猛者が集まるステージへの階段はいたってシンプルだ。各地にあるサーキットのSWSポイントトップが全国大会へのチケットを獲得できる。全国大会にはサーキット代表という形で参戦し、上位入賞者にはWorld Finalへの招待が届く。
まずは自分が参戦したいフォーマットを決めて、自分が通えるサーキットでどのレースが開催されているかチェックしてみよう。スプリントと耐久で世界大会への流れは変わらないが、招待枠やレースの仕組みが若干異なる。
スプリントレースの場合
スプリントレースは個人戦で、各人のSWSポイントで優劣が決まる。自分のホームサーキット代表で全国大会を目指すもよし、ライバルの少ない「穴場」を狙ってポイントを稼ぐのもひとつの手だ。
2023年の日本代表枠は3名で、この枠数は各国に存在するSodiの導入施設数、開催レース数、各レースの参加人数で割り当てが決まる。年末から年明けにかけて代表選手が選出され、World Finalへの招待が届くようになっている。
耐久レースの場合
耐久レースはチームでの参戦となるため、SWSポイントはチーム単位で加算されていく。全国大会への切符は、スプリントと同じく施設ごとのポイントで決まる。2023年の日本代表は2チーム。耐久レースもスプリントと同じ方法で国ごとの招待枠が決まっている。
大きな夢に向けて小さな一歩から踏み出そう
レンタルカートは、突き詰めるとレーサー人生を切り開ける可能性がある。世界大会までの道のりは険しいが、絶対に手が届かない夢物語ではない。川福氏は猛練習によって、30代からその道を切り開いたレンタルカート界の第一人者だ。
カートの運転は奥が深い。ぜひ他の記事も参考にしながら、少しずつレベルアップして、レースを楽しんでいただければ幸いだ。


