「おかえり」こと岡村英莉選手は、レースクイーン出身のレーサー兼タレント。しかし彼女を見るときに色眼鏡は外してほしい。2022年に富士スピードウェイで開催されたN-ONE OWNER’S CUPでは、過去最多となる92台のエントリーに加え、国内最高峰フォーミュラであるSUPER FORMULAチャンピオンまでを相手取って優勝をもぎ取った実力を持つ。その岡村選手に、レースとの出会いや優勝時のこと、現在の目標などを聞いた。聞き手はモータースポーツアナウンサーの結川愛寿加さん。
カート大会での出会いで人生が一変
結川 モータースポーツとの出会いは、&RACEの三上編集長が現役時代に主催していたカート大会に参加したことからだったんですよね?
岡村 そうなんです。三上さんに「おかえり、速いじゃん。本格的にレースをやってみたら?」と言われました。私が乗せられやすいタイプなのもあって、それ以降もカートに乗るようになったんです。
カート大会の参加者にはクルマに詳しい方が多かったので、走り方を教えてもらったり、手助けしてもらえる機会に恵まれました。ただ、その時点では4輪競技に参戦することは想像もしていませんでしたね。

なおこの時のレーシングスーツは全て三上の現役時代のもの
結川 そこからどのようにレースの世界へ入っていったんですか?
岡村 最初は、モータースポーツは速いクルマがひしめき合う、怖い世界だと思っていたんです。ですがレースクイーンのお仕事をいただき、応援する側で足を踏み入れてみるとそのエンターテインメント性に驚きました。
すぐに自分もやりたくなり、カートに少し乗っただけだったのに「私も4輪競技に出たい!」と思うようになりました。私は他のスポーツでも応援しているとやりたくなるタイプなんです。フットサルやバスケットボールにのめり込んだ時期もありました。子ども時代からスポーツ少女だったんです。
結川 その身体能力がレースでも活きているというわけですね。
岡村 それだけではないと思います。体力自体は努力で誰でもある程度は作れます。ですがモータースポーツは頭脳戦。身体能力に加えてマシンの性能を活かす能力が必要だと感じています。
レース終わりに「頭を使いすぎて頭痛で動けない…」ということも。ライバルも全員が同じように頭を使いながら苦しんでいるので、そこはどのレースでもイコールコンディションですね。
決勝では「道」が見えた
結川 デビュー以降、印象に残っているレースはなんですか?
岡村 2022年N-ONE OWNER’S CUP 第12戦富士ラウンドですね。軽自動車のN-ONEを使った大人気のワンメイクレースで、富士スピードウェイでは100台近いエントリーがあるんです。本戦の決勝に進めるのは上位50名。私は予選で全体の5位でした。その日はとても乗れている感覚があったので、予選結果が出たときに「あれっ?みんなそんなに速かったの?」という感じでした。
不思議な話なのですが、決勝ではスタートするときに道が見えたんです。「前の4台はこういう動きをするはず」という予感がしました。「ここだ!」と見えた道を通り、早速1周目1コーナーで2位まで順位を上げました。
それができたのは、レース前から近くのグリッドを観察しに行ったり、挨拶がてら偵察したりしていたことが効いたのだと思います。
結川 レース前から戦いは始まっているんですね!
岡村 当時は前期型と後期型のN-ONEが混走していて、ラップタイムは同じですが、強みが違いました。他にもタイヤメーカーや認定パーツの選択で特性が変わるので、近くのグリッドにいる選手を観察することは大切です。
とはいえN-ONE OWNER’S CUPはJAF入門戦。ピットは和気あいあいとしているので、ピリついた感じではありません。一方でF1やSUPER GT経験者も参戦するなど、幅広いレベルのドライバーが交流するレースなんです。



