日本中のレンタルカートコースから代表チームが一堂に会して日本一を争うN35日本一決定戦は、BirelのN35を用いる耐久レースイベントだ。その内容は施設対抗戦とは思えないほど熾烈で濃密。今回はN35日本一決定戦に参戦した川福健太選手に、レースの感想や魅力を聞いた。
川福選手はSodiのレンタルカートで日本一獲得や世界選手権への出場経験を持つ、レンタルカートのマイスターだ。レンタルカート日本一、公認4輪競技で多数のチャンピオン獲得、Racing School GoTakeインストラクターなど、あらゆるレースシーンで活躍するドライバーに、N35日本一決定戦はどう映ったのだろうか。
ーーN35日本一決定戦はどのようなレースなのでしょうか?
川福 レンタルカートのN35だけで行う施設対抗型イベントで、初見の方もいれば、昔からこのイベントに参加し続けている方もいました。レースは2デーで行われ、初日の土曜日に予選、日曜日に3時間の決勝というスケジュールで行われます。今年のN35日本一決定戦はオートパラダイス御殿場で開催されました。
予選で上位のチームは「チャレンジクラス」、下位のチームは「エンジョイクラス」に振り分けられます。実績と経験豊富なドライバーがいれば余裕でチャレンジクラスに入れるのかと言えば、そうでもないのがN35日本一決定戦の面白いところです。

ーーレースの魅力を教えてください。
川福 一言で言えば超マニアックに物凄くハイレベルなことをしています。N35は新旧のシャシーモデル差や、メンテナンスの状況によるエンジン性能の個体差がとてつもなく奥深い戦略性を生み出しています。
具体的には赤いカウルの1~11番が新しく、黒いカウルの12~40番が古いシャシー。取り付けられているカウルの違いが重量差を生んでいます。2023年までは約15kgの重量差がありましたが、運営の努力によって2024年は5kgまで差が埋まりました。
加えて重量で有利な黒カートには燃料リストリクターの取り付けとタイヤの空気圧で性能調整を行い、全車両のタイム差が1秒以内に収まるように調整されています。そこまで調整しても個体ごとにタイム差は出てしまいます。しかし、その個体差を攻略することがN35日本一決定戦の面白みにもなっています。
N35日本一決定戦では、自分たちのチームが素性の良い個体に長く乗ることが勝利への近道になります。もちろん運営側もそれはわかっているので、ドライバーチェンジのたびにマシンを入れ替えます。しかし、良いマシンはピットインのタイミングが計算されていて、争奪戦が起こります。


マシンは「ところてん方式」と呼ばれる、ピットインした順にストックの前にあるマシンでピットアウトしていくルールです。
コース脇ではチームのストラテジー担当がタイムとドライバーを記録しながら統計を出し、速いドライバー、速いマシン、軽いドライバーを特定。さらに各車の出走タイミングも記録して、1スティントでも多く自分たちに最良のマシンを持ってこようと必死です。
同じようなエンジンとシャシーのマシンでも、タイヤの減り具合でコンディションが変わるので、ストラテジー担当まで用意しているチームは走りとデータを見ながらマシンを選別し続けます。2デーのイベントなので、1日目で特定した速いマシンの、2日目での動きもチェックしていたりと大忙しです。
レースの途中、予期せぬタイミングで速いマシンがピットインすれば、パドックは大騒ぎになります。無線を飛ばして仲間をピットインのタイミングを指示し、ドライバーとマシン交代を行います。しかし、ここで僕たちのチームはミスを犯してしまいました。

ーー嫌な予感がしますが、何があったのでしょうか?
川福 ペアのドライバーがヘルメットの顎ひもを忘れてピットアウトしてしまいました…。すぐにオレンジボールの指摘を受けてピットインのロスが発生し、それまで優勝争いをしていた戦列から離脱してしまいました。
状況が目まぐるしく変わり、休憩時間だと思っていたタイミングでヘルメットを被らないといけないことも多いため、慌てて顎ひもを忘れてしまったのでしょう。僕も悔しかったですが、相方は特に悔しがっていましたね。
ーー今回の結果は残念でしたが、このレースはぜひとも広まってほしいですね。
川福 そうですね。まるで4輪競技のトップカテゴリのようにコース外のメンバーが動き、それが結果に繋がってくることは本当に面白いです。ドライバー以外も本気で楽しめるN35日本一決定戦は、他のカテゴリに挑戦する足がかりになると思いますし、同時に他カテゴリの凄さも伝わるでしょう。
このような大会がもっと盛り上がっていくと、モータースポーツ人口増加に良い効果があると思います。
レンタルカートと侮ることなかれ。レンタルカートを知り尽くしたサーキットの代表チームが集うN35日本一決定戦では、その名にふさわしいコース内外の激戦が繰り広げられている。実力派ドライバーだけでは勝利にたどり着けないタフなレースとして、今後も盛り上がり続けるだろう。
N35日本一決定戦はプロレースさながらのハイレベルなレースだが、ローカルサーキットで頭角を示せば出場できる、夢のあるステージだ。世界大会経験も豊富な川福選手の力を借りて日本一決定戦を目指したい方は、ぜひこちらからレッスンを覗いてみてほしい。