人気レーシングゲーム「グランツーリスモ」の世界大会覇者として学生時代からその名を馳せる宮園拓真選手。大学卒業後はタイヤメーカーに就職し、グランツーリスモのプレイヤーとして活動を続けるとともに、社会人2年目からは実車レースにも挑戦し速さをみせる。そして今年2025年には、世界一過酷と言われるドイツ・ニュルブルクリンクのコースで行われるレースに参戦中だ。会社員業務のかたわら多彩に活躍する宮園選手に、「ニュル」でのレースと所属企業の話をメインに聞いた。
ニュルへ行くのは今しかない
宮園選手が大学卒業後に就職したのはタイヤメーカーのTOYO TIRE株式会社(トーヨータイヤ)。同社はドイツのニュルブルクリンクで行われる「ニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)」および「ニュルブルクリンク24時間耐久レース」に2020年から継続して参戦しており、2024年にはSP10クラスでNLSの年間シリーズチャンピオンも獲得している。宮園選手はそのレースに業務の一環として携わることになった。
同シリーズ/レースが開催されるニュルブルクリンクは、複合コースで全長25kmという世界一長いサーキットだ。カーブは170以上を数え、標高差は300mにもなる。コース幅も広くなく、サーキットというよりは山間の一般道、峠道に近いイメージさえある。気象条件もよく変わる。ゆえに同所は世界で最も過酷なサーキットとも言われている。
そんなハードな場所で開催される「ニュル耐」「ニュル24時間」は宮園選手の憧れであり、一番出場したいレースでもあった。業務で行った現地でニュルを目の当たりにし、自身も参戦したい気持ちは高まっていった。
実車レースはヴァーチャルの大会とは異なり、速くて技術があればいつでも誰でも参戦できる世界ではない。チャンスは一瞬しか訪れない。ニュルに飛び込めるのは今しかない。そう感じた宮園選手は、挑戦を決意する。


Super FJとグランツーリスモで鍛えられ
まずはプライベートでニュルを走ってみたうえで、出場のために必要なライセンスのグレードBを取得。「ニュルブルクリンク耐久シリーズ」への出場が可能となった。オンラインで行われるテストはもちろんすべて英語(もしくはドイツ語)。またニュルは独自ルールが多く鈴鹿やもてぎに比べ難しいと言われるが、仕事でニュルに関わっていたこともプラスして無事合格した。
実車でのレースキャリアは3年目に入ったところだった。だが不安はなかった。前年のSuper FJへの参戦で、鍛えられたという実感があったからだ。Super FJはハコ車ではないが「基本に忠実でシビアなマシンなので、丁寧な操作が必要。そうでないとすぐにスピンします。一方で荷重移動をしっかりやってあげれば速く走れる。自分にとってはかなりのステップアップでした」。
地獄とすら言われるニュルの長大で過酷なコース。プロドライバーでさえ恐怖を感じるというが、いきなりの挑戦でも走れるとは思っていた。グランツーリスモで走りこんでいたからだ。
「1000周、いや2000周から3000周はしているのかな…。子供のときから走っていて、気づいたときには全長20キロ以上のコースのすべてを暗記していました」


怖いニュルでもファステスト
とはいえ、リアル・ニュルブルクリンクを走行したときはやはり怖かったという。
「怖いですね。やはり起伏が思った以上にすごい。縦方向はゲームだとあまり感じないので、走り始めはその感覚がうまく理解できませんでした。それからニュルはエスケープがほぼない。なにかあると即クラッシュです」
それでも初戦でいきなりクラスのファステストを取った。乗った車ではそれまでで2番目に速いタイムだったという。クラスは入門者向けのVT2、車両はトヨタのGRスープラだ。前日にライセンス取得のためのコース走行などで10周以上、2時間近くコースを走れたのも大きかった。
だがことは順調には運ばず、第2戦では練習走行時にクラッシュ。車両は修復できず無念の欠場となる。「1か月のブランクのせいか感覚をつかみそこね、必要以上に攻めすぎました」と悔しい思いをしながらも冷静に分析する。

