社員ドライバーとして心機一転
最初の2戦はプライベートでの参戦だった。だが出場・走行経験も蓄積できたため会社に直談判、「社内外の多くの方々の協力を得て、次戦からはトーヨータイヤのチームから社員ドライバーとしての出場が叶うことになりました」。全世界に1万人以上の従業員がいるなかで、現在唯一の社員ドライバーだという。
新たな立場で臨んだ3度目の参戦となる第6戦では、前回の経験をバネに最速ラップタイムでクラス3番目を記録する走りを見せ、全10台中5位で完走をはたした。初戦とあわせ2回の完走を達成し、上位ライセンスのグレードAを取得する権利も得た。より速い車両での出場が可能になったため、来シーズンはGT4での参戦を目指している。
だがまずはその前に、9月に2日連続で行われる第7戦、第8戦だ。
「ニュルは天気が変わりやすく、雨が降っているところと降っていないところもあります。そこはシミュレーターでは学習しきれない。コンディションが変わった時のタイムの落ち込みが大きいのが課題です。
慣れたドライバーだと、どのあたりに雨が降っているか把握できますが、僕はまだそのレベルには達していません。無線でも教えてもらえますが、まだ運転だけで精一杯の状況ですので簡単にとお願いしています」
課題も明確になるなか、さらなるステップアップを目指してニュルを駆け抜ける。


ニュルは身近!まずはシミュレーターから
実車デビュー3年目にして好記録を出す宮園選手。ニュルを速く走るための練習アドバイスを尋ねると「やはりグランツーリスモがおすすめです」という答えが返ってきた。
「最初はラインアシストを出して走るのもいいですし、慣れたら消す。走行ラインは実物のコースと変わりません。ブレーキングポイントも同じ。走りながら起伏や縁石の高さなどを覚え、使える縁石・使えない縁石を見きわめていきます。それから速いドライバーの車載動画などを参考にして、自身の課題を一つ一つ潰していく。リアルで走る時は、やはり起伏や縁石の高さに注意することが重要ですね。
ニュルは心理的にも物理的にも遠く感じてしまう存在ですが、どんな方でも走ることができます。僕は免許を取る際に初めて実車を運転して、カートに乗ったのも免許を取ってからです。その前の土台はすべてグランツーリスモから成り立っており、そのような人間でも実車でニュルを走ることができます。
それから、ニュルには誰でも気軽に走れるツーリストデーというのがあるんです。ただ日本では走行手順の情報があまりないので、いずれわかりやすくお伝えして、ニュルは危険なサーキットではあるけれど身近な存在だということを、もっと知っていただけるといいですね」



タイヤメーカー社員としての熱量
トーヨータイヤ社員としての宮園選手は、まずマーケティングの部署に配属されたのち、現在は商品企画に携わっている。今どんな消費者のニーズがあるかを綿密に調査し、商品のコンセプト・性能・サイズなどを販売・技術・生産の各部門と連携して形作っていく。新製品を生み出す際の、スタート地点にあたる部門だ。
宮園選手がトーヨータイヤの一員になったのには理由があった。
「子どもの頃から色々なレースを観ていたのですが、ドリフト競技を観る中で、トーヨータイヤのドリフトチームが好きだったんです。川畑真人選手や黒井敦史選手、佐久間達也選手がかっこよくて。今、ニュルでは憧れの川畑選手と一緒に走らせていただいています。だから、子どもの頃からトーヨータイヤが好きだったというのが理由の一つ。
それから就職面接の際、モータースポーツ事業に携わりたいと希望をお伝えする中で、会社としてモータースポーツ事業を拡大していく、ニュルブルクリンクに参戦していくというお話を伺い、そこに夢やパッションも感じました」
自分もこの会社の一員になりたいと思った。そんな会社に、自身の持てる運転技術を活かして貢献したいという気持ちは強かった。
「今、タイヤメーカーが技術競争をできるレースといえば、ニュルやSUPER GTがメインになります。世界を代表するレースで社員ドライバーとして結果を出し、トーヨータイヤのプレゼンスを上げることができたらと考えています。
それから社員ドライバーとして全力で取り組む姿を見てもらって、トーヨータイヤと「PROXES」というブランドをもっと応援していただけるようにしたい。トーヨータイヤといえばPROXES、PROXESといえばニュルブルクリンク、そう皆さんに認知いただけるように努力を続けていきます」


グランツーリスモの大会にも
9月のニュル耐に2戦出場した翌週には、同じドイツのベルリンで開催される世界大会「グランツーリスモワールドシリーズ」におけるネイションズカップ(国/地域代表)出場が控えている。
「世界大会出場はもう8年連続になります。ずっと出場しているので、代表として恥じないような内容にしたい。見ていてワクワクして、かっこいいと憧れられるようなレースにしたいです」
宮園選手にとってゲームはゲーム、実車は実車。どちらが上とか下ではないし、どちらかへ完全に移行するものでもない。イコールであり両輪なのだ。TOYO TIRE社員として商品企画業務に邁進するかたわら、宮園選手はTOYO TIREの社員ドライバーとグランツーリスモプレイヤーという2つの領域においても活躍を続けていく。