ラリーレイドにおける強さの秘訣とは
数百kmからときに1万km以上の長距離を走るラリーレイド。「僕はスプリントでモトクロスや4輪のトッププロと勝負したら歯が立たないわけですが…」。含みのある発言は、同時に別のスキルが操縦技術をカバーして余りある速さを生み出していることを示唆していた。
地形を読む能力
「地形は論理的に形成されています。道なき道を進むために必要なのは、第六感ではなく知識と判断です」。
山越えをする道は川沿いに上っていき、傾斜が急峻になるとつづら折りの峠になる。雨が川を形成する場所では石も多くなる。こうした情報を地図とルート候補から読み取り、最速で通れるルートを判断する能力がその速さを支えてきたという。
「オフィシャルからは最も安全な『1』から、最も危険な『3』まで、3つのルート候補が渡されます。『1』は時間がかかるので無視。そうすると『2』と『3』をいかに攻略するかという話になります。ブレーキを踏むたびに数秒のロスが発生し、積もり積もれば大きなロスになります。地形に関する知見をフル活用して、最小限のブレーキで走り抜けることが僕の強みです」。
三橋氏は2輪時代から自分でルートを選び、最小限のロスでゴールへ向かうスキルを培ってきた。30歳を過ぎてからの4輪転向は決して早いとは言えない。それでも世界中のラリーで成績を残せたのは、地形を攻略することで、アクセルから足を離さないドライビングを可能にしていたからだった。
過酷な環境でストレスを感じないこと
ラリーレイドは、常にゆっくり食事をして、ホテルでぐっすり眠れる競技ではない。テントで寝泊まりすることもある。万全とはいえない環境で走り出しても、高いアベレージスピードを保つことが勝利のカギになる。疲労やストレスを最小化することは、長距離レースに大きな影響を及ぼす。
「一発の速さや筋力やよりも、自然への慣れや集中を持続させる持久力が大切になります。都会とは異なる日常を受け入れて集中できないと、ラリーレイドを戦い抜くのは厳しいでしょう」。
三橋氏は持久力と地形感覚を磨くため、自身の原点でもあるマウンテンバイクで山野を走るトレーニングを続けている。
ちなみにパリダカといえば広大な砂丘を超えるイメージがあるだろう。日本で砂丘を走る練習は難しそうだが、練習は雪山でできるのだという。凹凸が見えにくくなる光の当たり方や丘の形作られ方は共通しており、平衡感覚が失われる環境も似ていることなどから、練習に最適なのだそうだ。
集中力が高まって波長が合うと、「乗れている」日も生まれるのだという。
「『今日は乗れている!』という日は、運転中にだんだん調子が上がってきます。目の前に現れた障害物への反応が速くなり、視野も広がります。周りのクルマが遭っているようなトラブルも回避できるようになるので、アベレージスピードが上がります。そういう日はアドレナリンが出て気持ちいいんです」。
しかし、そんな「乗れている」日は数週間のレースを通じて数日しかないという。基本的には一発のピークパフォーマンスよりも安定して高いアベレージを出す方が結果は良くなる。トレーニングは、そんな「フラットな走り」を実現するために選んだ。
夢は未踏の大陸、南極へ
2輪時代から中東の砂漠やアメリカの原野を駆け抜けながらその景色に感動していたという三橋氏。世界中で戦ってきたが、まだ足を踏み入れていない大陸が南極だ。
「南極で趣味のスノーボードをしてみたいですね。ブリザードもあるので、滑れるのは2週間滞在して1、2日でしょうが、南極でスノーボードしてきたなんて言ったら面白いじゃないですか」
マウンテンバイクで山を駆け回った高校時代から、旅好きの性分はまったく変わっていないようだ。
クルマの楽しさ
「操れると気持ちいいですよ」。三橋氏は意のままにクルマを操る楽しさを繰り返し語った。4輪デビューとなったファラオラリーでも、最初はストップを繰り返してしまったが、徐々に走らせ方を掴んで気持ちよく走らせられるようになると結果がついてきたという。
「クルマをコントロールできるようになると、脳の処理速度が上がり、周りがゆっくりに見え始めます。そうすると怖さは感じなくなり、速く走れるようになります。一方で普段何気なく乗っているクルマを思いのままに動かすのはとても難しいです。その『難しい』を克服したときの気持ちよさと喜びは、みなさんにも実感していただきたいので、ぜひサーキットに繰り出してみてください」。