クルマを知り尽くしたレーサーは、プライベートでは何に乗っているのだろうか? 今回はSUPER GT 300クラス、植毛ケーズフロンティアGT-Rをドライブする甲野将哉氏に、これまでと現在の愛車を教えてもらった。意外にも質素なラインナップは、’90年代から’00年代に再生紙で作られた雑誌を読み込んで中古車を漁っていた人間なら「ウンウン」と頷きたくなるクルマたちだった。
卒業祝いのS13型シルビア9万円


幼少期からレーサーに憧れていた甲野氏は高校卒業後、大学へは行かず資金を貯めてレースデビューを目指す道を選んだ。
「大学の学費を払わなくていいってことなら、卒業祝いにクルマを買ってやろう」と、父がS13型Q’sスペックのシルビアを買ってくれた。当時の価格で9万円程度だったという。教習代を節約し、免許は一発試験で取得した。
シルビアは前期型のノンターボモデルだったが、FRスポーツの魅力は十分に兼ね備えた一台だった。90年代にシルビアを運転する18歳がすることは一つだ。甲野氏もその例に漏れず、様々な理由で次々にシルビアを乗り潰した。走り屋時代を経てSUPER GTデビューしたドライバーは、2022年の甲野氏が最後かもしれない。


レースデビュー後もシルビアを乗り継ぐ
高校卒業から6年、資金の目処がついたところでフォーミュラの世界に飛び出した。初めて乗ったマシンはWindsガレージのFJ1600。筑波ともてぎでダブルチャンピオンを獲得する実力を見せると、当時ホンダが主催していたFormula Dreamへステップアップした。
「この頃には故障や部品取りで4〜5台のS13シルビアを乗り継いでいました。さすがに違う車にも乗ってみようと思いましたが結局シルビアでした。最後はS14型です」。やはり中古で手に入れたという。

RX-7より楽しいクルマ
2006年。フォーミュラを降りていた時期にかねてより憧れていたクルマを手に入れた。マツダRX-7(FD3S)の5型タイプRSだ。「最高のコーナリングマシンが欲しい」とパワーアップには手をつけず、足回りをチューニングして軽快な乗り味を追及した。


だがフォーミュラの応答性、回頭性を知ってしまっていた甲野氏には物足りなかった。それにRX-7のチューニングは深い沼だ。パワーに剛性、足回りも青天井にカスタムできる。「これはキリがないな…」とわずか2年で手放してしまった。
「今でも維持していればプレミア価格になっていたんでしょうけど、売ってしまったものは仕方ないですね」。
意外にも長い付き合いになったのが、RX-7の購入前に「つなぎ」のつもりで購入したNA型のロードスターだ。
「内装や足回りにライトチューンを施して乗ってみると、思ったより楽しいクルマでした。今でも2台ある愛車の片方です」。
軽量で低重心なリトラクタブルのオープンカーは、街乗りから雪道まで、今も全国の旅で足を支え続けている。走行距離は30万kmを超えた。


レース活動を本格化させるためにフリーランス転向してから、甲野氏は氷上走行を主催し始めた。その際、愛着の強いNAロードスターにはあまり傷をつけたくないという思いから、当時値下がりしていたNCロードスターを購入。今ではNA、NCロードスターの2台が愛車だという。
「気づいたら自宅のガレージにあるクルマの輸送能力は2台で4人になっていました」。



