エントリーレーシングカート「KT」には、多くのドライバーが登竜門として搭乗している。長年KTに乗り続ける「KTマイスター」とも呼ぶべきドライバーも存在するが、多くはさらなる高みを目指していく。今回はKTからレースキャリアを始め現在では4輪レースで活躍する坂上真海氏に、そのステップアップ先について解説してもらった。
KTからのステップアップ先
KTは多くのプロも輩出してきたピュアレーシングの入門カテゴリーだ。純粋にカートの日本選手権でステップアップする場合はFP-3クラス、FS-125クラス、OKクラスと進むルートがあるが、それ以外にもKTを卒業したドライバーには大きく分けて2種類の進路がある。
ハイパワーカートへの転向
大人であれば25歳以上を対象としたROTAX MAX MASTERSへの転向は有力な選択肢のひとつだ。125ccの水冷エンジンはハイパワーで、タイヤのグリップは強烈。余談だが、当サイトの編集長はMAXでのトレーニング中にGで肋骨を折ったことがある。
「KTでしばらくレースに出ていると、バトル勘が養われます。もっと速いマシンでもっと速い人と戦いたい!と思ったらMAXがおすすめです」。
特に岐阜県のフェスティカサーキット瑞浪で開催されている、40歳以上を対象としたROTAX MAX MASTERSクラスは、20~30台のエントラントを集めるなど盛り上がりを見せている。好成績を残せば全国の強豪が集うMAX Festival、世界一を決めるGrand Finalsへと進む道が用意されている。
ROTAX MAXの全国大会、世界大会は年齢別にクラス分けされており、挑戦を始めるのが遅すぎるということはない。

4輪へのステップアップ
多くのアマチュアレーサーにとって、目指すハコ車の到達点は国内耐久レースの最高峰、スーパー耐久シリーズだろう。とはいえ「KTが速いのでスーパー耐久のシートをください」と言って走れるレースではない。
そこで坂上氏が進路として推奨するレースがN-ONE OWNER’S CUPやVITA CUPだ。たとえば2021年のN-ONE OWNER’S CUPシリーズチャンピオン川福健太氏は2023年にスーパー耐久デビューを果たした。坂上氏はVITAのKYOJO CUPで戦いながらさらなる高みを目指している。
「カートから4輪へと進むときに乗り越えるべき違いはサスペンションの有無です。4輪はハンドルを切って、サスペンションが動いてから挙動を起こします。私が練習やステップアップに最適だと思う4輪マシンはVITA。速度域が高いだけでなく、プロと交流する機会もあるため学びの多いカテゴリーです。
少し現金な話になってしまいますが、多くのスーパー耐久関係者が各地のVITA CUPに出場しています。ステップアップには将来につながるチームに入ることも重要。効率よく学んだり、人の目に触れる場所に身を置くことも努力のひとつです」。

本格レースの始まりはKTから
KTエンジンは入手性とメンテナンス性に優れた傑作だ。それを操るドライバーはF1を目指す志士から親子でのレースを楽しむジェントルマンまでさまざま。クラスも豊富に用意されているため、目指すレース体験に合わせた乗り方を選べる。
KTはレーシングエンジンとしては非力だが、レンタルカートと比べれば速度域やレスポンスは遥かに高い。レンタル用のサーキットでは、KTを上級者向けとして基準タイムをクリアした人にだけ貸し出すケースが多い。
長年かけて熟成されたエンジンとマシンの構成はバランスがよく、初心者からプロまで練習に最適。中古マシンの流通量も多いため、速く、強くなるために低コストで練習を重ねることもできる。
乗り続けてKTのエキスパートになるもよし、早期な卒業を目指すもよしだ。自分でカートを所有することが難しい場合、サーキットの近くにあるガレージからマシンを借りるという選択肢もある。敷居は低いがレベルが高いKTに、ぜひ一度乗り込んでみてほしい。