全日本選手権EV部門
2022年から始まった全日本選手権のEV部門は2年目を終えた。初年度はSUPER GTドライバーなども参戦して少人数で行われていたが、2023年はエントラントを10名に拡大。ステップアップのための登竜門としての足場を固め始めている。
マシンはもちろん、タイヤ内圧のセッティングまで完全に統一されたワンメイクのシリーズは、ドライバーの実力だけがレースを左右する。「バッテリーの状況などによるピークパワーの差はわずかにありますが、もてぎやSUGOで0.3秒以内に収まるほどわずかです」。
参戦コストはエントリー費用だけ
カートの全日本選手権出場には年間数百万円の予算が必要というイメージがあるだろう。そしてガソリンカートに関して言えばその認識は概ね正しい。しかし、EVクラスは事情が異なる。
「マシン、メカニックは全てトムスが用意し、各レースのセッティングも全てトムス持ちです。参戦ドライバーにかかるコストはエントリー費用だけ。まるでレンタルカートです」。
EV部門の登録台数は現在10台。シーズン開始前の書類選考とテスト走行でエントリー可否が決まる。今後マルチメイクになるのか、参戦台数が増えるのかなどは不明だが、競技がブラッシュアップされて進化することは間違いない。

FS125級の実力
いくらワンメイクでメンテナンス不要といっても、競技レベルが低くてはステップアップに向かない。そこでどのくらい速いのか単刀直入に聞いてみた。
「タイムでは全日本選手権で使われる空冷2スト125ccのFS125に迫ります。同じく全日本格式のFP-3クラス(いわゆるKT)よりは速いマシンです」。


停止状態でアクセルを踏み込んだ時の加速はホイールスピンするほど鋭い。0~100m加速タイムは驚愕の3秒だ。一方で「アクセルのレスポンスはエンジンカートよりは少し遅い印象があります。電子スロットル化で改善される余地があるポイントですね」。
タイヤは全日本選手権最上位のOKクラスと同じものを装備しており、高い戦闘力のポテンシャルがある。
「現状はFP-3クラスとFS125クラスの中間ですが、重量さえ並んでしまえばOKクラスより速いかもしれません」。
クラス | タイム |
---|---|
OK | 38.339 |
FS125 | 39.859 |
EV | 41.226 |
FP-3 | 43.397 |
今後の発展に期待大
EVカートは静粛・ゼロエミッションという性格から、モータースポーツの敷居を上げてしまう、サーキットの所在地を打破するポテンシャルを持つという。
「駆動音は、耳をすませばインバーター音が聞こえる程度。排ガスもないので、都市圏におけるレース体験の現実性が高まります。ガソリンやオイルを使わないため、消耗部品の交換頻度も少なめです」。
また、EV自体が開発途上にあることも、EVカートの可能性を見て取れる。ガソリンを使う従来型のカートはいわゆる「枯れた技術」を使っているため、コスト低減や性能向上は限界に近づいている。一方でバッテリーの小型化や、モーターの効率化にはまだまだ技術改良の余地がある。
「もっと速く、もっと安くなる可能性を大いに感じます。現状のEVカートは重量がパフォーマンスのボトルネックになっていますが、これは技術革新で挽回できる分野でしょう。量産と普及が進めば、コストが下がり、エントリー向けのモデルも現れるでしょう」。
ガソリンの匂いと音が好きなクルマ好きには辛いが、EVシフトの流れは止められない。ゼロエミッションのEVカートには「ショッピングモールの一角に本格的なサーキット」などの夢が広がっている。これを好機と捉えてひと足さきにEVカートに注目しておくと、素晴らしい体験に出会えるかもしれない。