モニターに映し出された白煙をあげる18号車
30日の最初の走行。わがチームでは、マシンも作りハンドルも自ら握る、レースキャリア45年以上、本年71歳を迎える「走るレジェンド」こと、Aドライバーの浅野武夫(以下、武夫さん)がハンドルを握りコースイン!までは良かったのですが……おや?出た途端にメカさんが何か騒ぎ始めている。何が起きた!?明らかに張り詰めた空気、様子がおかしい……
赤旗中断!
ピットにあるモニターを見ると、何と煙を出してコース外に停車している我らが18号車の姿が映し出されているじゃないですか!!!それもかなりの煙の量!
”まさか、火災発生?”
映画のワンシーンのように時が止まったように感じ、心臓の鼓動が一気に上がって行きます。
嘘だと、この映像は何かの間違いだと言ってよ!
すると次にモニターに映し出されたのは、ボンネットを開けてエンジンを確認している武夫さんの姿でした。無事で良かった……っていうか、武夫さん、まさかそこでマシン直しちゃう?それは何がなんでも凄すぎるぞと、周囲の空気が一気に緩むのがハッキリと感じられるとともに、レジェンドの偉大さを再確認です。
そしてそんな私の頭の中のグルグルなどもちろん関係なく、ピットではメカさんが冷静に、武夫さんと無線でやり取りを繰り返します。
「スペアエンジン持って来てる?」
「持って来てる」
最初はこのまま私は自宅に引き返さなければいけないのかとも思ったのですが、幸いにもマシンは煙は出たものの燃えてはおらず、エンジン交換で次の走行には間に合うとのこと。そしてオフィシャルの手によって運ばれてきた18号車を見ると、外装は実に綺麗なままで、車両自体が使えなくなるような状況ではない事が、私にも見て取れました。
”神様ありがとう(涙)でも、ここで一生分の運を使い果たしてないよね??もうちょっと運を残しておいてね”と感謝しました。
それからというもの、メカさんの迅速な対応のおかげで、あっという間にエンジン載せ替えは完了。ギリギリでこの日の最終セッションが走行ができることとなりました。
これぞ浅野レーシングサービス!
エンジン交換してその日のうちに再スタート!
そして修理が終わった18号車が、改めてスタートです。まずは武夫さんがマシンの調子を確認のため、最初にコースイン。昨年の最終戦からサーキットを全く走ってなかったというのに、やはりレジェンドは伊達ではありません。燻銀の走りが光ります。続いてステアリングを握ったのは、今年から加入の上村優太くん。そして3番目に……とうとう私の番が回って来ました。
久しぶりの18号車、86では初めてのスリックです。
まずは様子を探っていかなければと、コースではこれまでのラジアルタイヤと同じようなタイミングでブレーキングを開始したのですが……
限界が高すぎる、強敵BSスリックタイヤ
”うわー止まり過ぎる!”
それだけではありません。”どこまで攻めてもアンダーステアが出ない!””限界が高過ぎて、ブレーキ操作・ハンドル操作・アクセル操作、とにかく全部違う!!!” ついにはあまりにも強烈な横Gに、”く……首がもげそう……”
とにかく強烈に高くなったグリップに、度肝を抜かれました。はい、タイヤが変わっただけで、マシンは全くの別物になっていたのです。しっちゃかわっちゃかパニクりまくりながらも、10周走行したところでメカさんから無線が入り、ピットイン。Bドライバーの伊藤 慎之典くんに、無事バトンを渡すことが出来ました。
そこでほっとしたのも束の間。マシンから降りると、すでに身体中が全て痛い……情けない(涙)”これは……そうだ……2001年に初めてF4に乗った時と同じ感覚。あの時はとんでもない化け物カテゴリーを選んでしまったと後悔したっけ……”
そんなデジャブのような感覚が時々蘇るような状況の中、この日はその後温泉に入り、マッサージを受け、先生にどれだけ自分が頑張ったのにダメだったのか愚痴をこぼし慰めてもらい、へとへとになって眠りについたのでした。
しかし!やはり私の感じた「別物感」は、あながち的外れではなかったようでした。
何故なら昨年のスーパー耐久SUGO予選に関してトップ集団は1分33~34秒台だったST4ですが、なんと今回のテストでは、32秒台に突入するチームが出たのです!
1ラップで約1〜2秒も速いということは、クラスが上がったと言っても過言ではないレベルです。こんなにも全てが変わってしまうのですから、本当にタイヤの重要さを改めて感じざるを得ません。
今まで可愛いと思っていた18号車が、いきなり肉食化して本領発揮してしまった?私はこれから今後マシンを乗りこなせるのでしょうか!?
翌日31日は順調にメニューをこなし、最後の最後に伊藤くんがニュータイヤで鬼神の走りを見せてくれるなどチームとしては上場の出来で、今年初の合同テストを終了。自分はともかくとして、チーム的には良いデータを取ることが出来、開幕戦に向けて着実に進化を遂げた2日間となりました。