Super GTドライバーなども多く輩出してきた国内ワンメイクレースの雄、86/BRZ Cup。ナンバー付き車両のワンメイクレースとしては異例のプロフェッショナルシリーズを有し、人気あるワンメイクの域を出てプロドライバーの登竜門としての性格も持つ。なぜそのような盛り上がりを見せるのか、2020年のCLUB MAN オープンでデビュー戦からポールtoウィンとコースレコードを記録したRacing School GoTakeインストラクター川福健太氏に聞いた。
86/BRZ Cupとは
86/BRZ Cupは26年現在、21年発売の新型GR86/BRZ(ZN8/ZD8)で争われている。両車はセッティングこそ異なるものの、主要なパーツの構成は同じ。シリーズは年間7戦を通じて開催される。
ベース車両諸元
| 項目 | スペック |
|---|---|
| ベース車両(型式) | GR86/SUBARU BRZ Cup Car Basic(ZN8/ZD8) |
| エンジン(型式) | 水平対向4気筒 2,387cc(FA24) |
| 馬力・トルク | 235PS・25.5kgf/m |
| 駆動形式 | FR |
| トランスミッション | 6速MT |
| サスペンション | フロント:ストラット リア:ダブルウィッシュボーン |
| 車両価格(税込) | 3,334,000円〜 |
クラス分け
86/BRZ Cupは「プロフェッショナルシリーズ」と「クラブマンシリーズ」の2クラスが開催。それぞれのシリーズで改造範囲が異なり、プロフェッショナル認定ドライバーはクラブマンシリーズには参戦できない。
プロフェッショナルシリーズの方が改造の選択肢が広く、パーツの開発競争が熾烈だ。しかし、どちらも改造範囲は車検に適合する範囲に限定されており、「走った車で帰る」ことができる。
以下に各クラスで改造範囲が異なる主要なパーツを紹介する。
| パーツ | Professional Series | Clubman Series |
|---|---|---|
| ドライバー | 制限なし | アマチュアドライバーのみ |
| タイヤ | DUNLOP DIREZZA β05 N’FERA Sport R POTENZA RE-09D | DUNLOP DIREZZA ZⅢ CUP |
| サスペンション | 複数メーカーから指定部品を選択可能 | TRD/STI製のみ |
| フロントスタビリンク | 複数メーカーから認定部品を選択可能 | 変更不可 |
| マフラー | 複数メーカーから指定部品を選択可能 | 変更不可 |
開催概要
86/BRZ CupはトヨタGR86(ZN8)と、スバルBRZ(ZD8)を用いたナンバー付き車両のワンメイクレース。2023年は全国7サーキットで争われる。SUPER FORMULAやスーパー耐久などとの併催も多く、観客動員数が多いことも特徴だ。
そんな86/BRZ Cupのベース車両となるGR86とBRZは2022年より参戦車両が一新された。特に目立つのはエンジンの排気量だ。先代の86/BRZよりもボア径が拡大され、排気量が400cc拡大。1998ccから2387ccとなった。これによってトルクとパワーが引き上がり、戦闘力が向上。足回りの刷新なども相まって、岡山国際サーキットラウンドでは、2022年は2021年と比べて予選タイムが3秒近く更新された。
86/BRZ Cupは、2013年に開幕した先代の86/BRZ Raceから数えて11年目のシーズンに入った。FRのピュアスポーツを駆るスプリントレースということもあり、初年度から一貫して各レース70台以上のエントリーを記録し続けている。プロフェッショナルシリーズはプロの登竜門としても機能しており、冨林 勇佑選手・近藤 翼選手・堤 優威選手などのSUPER GTドライバーを輩出してきた。

86/BRZ Cupならではの魅力
86/BRZ Cupのマシンは自動車メーカーがこのレースを念頭にベース車両を作っているということもあり、素直で運転が楽しい。FR車特有の前後タイヤでの仕事分担(加速とハンドリング)、フィードバックの精度、ダイレクト感は他の駆動方式を採用する車両よりも「運転している感」を強く味わえる。
「全体的に我慢せずに踏み切れるクルマに仕上がっており、入門車両としても優秀なクルマです」と川福氏は言う。
「パーツメーカーも他のワンメイクレースと比べて投入する製品数が圧倒的に多く、姿勢が積極的なことも魅力です。そのためレースのフィードバックを開発に活かし、開発した新製品は認定を取って次回投入するというサイクルが生まれています。毎年新しいパーツが投入されるため、ドライバーのスキル以外にも注目すべきポイントがあるのは面白いですよね」。
86/BRZ Cupを盛り上げている要素は、なんといっても業界内での注目度とドライバーの本気度。
「ハコ車で実績を積み、上位カテゴリーへステップアップするというキャリアパスを実現できる、唯一のワンメイクレースが86/BRZ Cupでしょう。プロフェッショナルシリーズにはワークスチームやプロドライバーが出走しており、ここで勝つ難しさと価値を高めています。それだけに、活躍が認められればキャリアを拓く大きなチャンスになります」。
観戦する側としては、クラブマンシリーズとプロフェッショナルシリーズが立て続けに行われる点も嬉しい。現地にいれば白熱したマッチレースを連続して見られるので飽きが来ない。ピットウォークに行けば憧れの選手にも会えるので、エンターテインメント性も高い。
86/BRZ Cupの戦いは開幕前から始まっている
86/BRZ Cupは、速いドライバーが適当なクルマに飛び乗って走れば勝てるレースではない。ドライバー達はここで勝つために、年単位での戦略的なドライビングを行っているのだという。川福氏は「僕はまだその準備が整っていないのですが…」と前置きした上で、プロフェッショナルシリーズの上位ドライバーとなる条件を教えてくれた。

「ドライバーの技量が高いことは前提として、いかに勝てるチームで勝てるパーツを集められるかがとても重要です。チームによって、毎レースにどれだけ戦闘力の高いマシンを持ってこれるかが異なります。また、シーズンを通してドライバーが使えるパーツも開幕時点で大方決まっているので、下馬評がひっくり返ることは少ないです」。
強いチームのクルマに上手いドライバーが乗り、いいパーツで構成されたマシンで走れば速い。その条件を揃えるために、あえてプロフェッショナルシリーズへの参戦機会を見送るドライバーもいる。F1の世界ではマシンの戦闘力が大きく異なるために優勝争いに絡まないチームが多く発生するが、86/BRZ Cupでも似たような構図があるのだという。
「たとえばタイヤひとつとっても天候や気温、個体差によって速さが変わります。生産ロット単位でその年一番いいタイヤを自分が使えれば、シーズンを有利に運べることはイメージできるでしょう。メーカーは勝てるドライバーに一番いいパーツを渡したいので、メーカー側から見たパーツ供給先の上位に食い込むために、86/BRZ Cupの外でも努力が欠かせません」。
プロとアマチュアの世界が交差する86/BRZ Cup
熾烈な競争が繰り広げられるプロフェッショナルシリーズと、アマチュアが入門レースとして参戦することもできるクラブマンシリーズは完全に隔てられたレースではない。たとえば近藤翼選手の86/BRZ Raceデビューはクラブマンシリーズだ。険しい道のりではあるが、86/BRZ Cupはプロとアマチュアレーサーを繋ぐ架け橋の役割を果たしている。クラブマンシリーズへ参戦したければ、理由は「FRスポーツでレースをしたい」でもOKだ。


